本シリーズ記事では、ブロックチェーンビジネスのノウハウを体系的に学ぶことができます。第3章では、第2章で学んだことをパターン化および事例紹介を通じて、事業化について深掘りすることができます。
2024年「ブロックチェーンビジネス・アドベントカレンダー企画」4日目の記事です。 関連企業の皆様にも記事を書いていただく予定ですので、是非お立ち寄りください!
はじめに
第3章では、事例紹介を交えつつ、これらの利点を実際に、事業化の形(パターン)として整理していきます。
ちなみに第2章の前半では、
(継続性)業界全体で止まってはいけないシステムを任せっきりでいいのか・・?
(データ主権)重要な企業情報を他社に握られてないか・・?
(独立した意思決定)いつの間にか他社に従わざるを得ない状況になっていないか・・?
第2章の後半では、
企業向けのBC活用では、利害が相反する企業同士で取引することが前提
お金以外のデータもコピーできない有限の資産として扱える
企業がブロックチェーンを活用する3つの利点がある ・利点①:WYSIWIS (What You See Is What I see) ・利点②:ワークフローの効率化・自動化 ・利点③:記録データの証明・活用
という内容で説明してきました。
BCビジネスパターンの組み合わせ
第3章では、「どのような事業化の形(パターン)が存在しているのか?アイデア発想のポイントは?」という観点で、上図の4パターンに分けて説明していきます。
ちなみに、第2章では「BCの利点」に以下のような3点の利点を説明しました。
利点①:WYSIWIS (What You See Is What I see) ・最新データを常に共有・更新できる ・不整合が原理上発生しない 利点②:ワークフローの効率化・自動化 ・企業同士の業務フローが自動化 ・価値(金銭、所有権等)の移転も可能 利点③:記録データの証明・活用 ・データの追跡や証明ができること。(=トレーサビリティ) ・データの証跡から分かる新事実がビジネスに活用できること
そして、このうち利点2「ワークフローの効率化・自動化」、利点3「記録データの証明・活用」が、「よくある事業化の形(パターン)」に繋がっていきます。
また、ここで実際にご紹介する事例は、様々なパターンの組み合わせから成り立っているので、「この事例では4パターンのうちどれが当てはまるかな?」という視点で、ご覧いただければと思います。
パターン1:業務効率化
利点「ワークフローの効率化・自動化」の用いたビジネスパターンの一つ目として、名前の通りですが、業務効率化に特化した活用をするケースです。
BC活用アイデアを考えるポイント
業務効率化では、自社の業務改善に目が行きがちですが、BC活用にあたり、皆様に着目して欲しいポイントは「”相手とのやり取り”に改善の余地がある業務は何かないか?」という点です。業界や企業の慣習の中で、相手先の企業とのやり取りに不満を抱いている場合は、活用余地を探るキーワードとしては、紙書類、郵送、電話、FAX、待機時間、マニュアル対応、誤記、ミス、照合などです。
適用アイデア例
- 貿易金融
- 国を跨いだ決済プロセスの自動化
- 受発注・決済
- 発注から支払いプロセスまでの自動化
- リコンサイル
- 帳簿と都合処理の自動化
- 行政系
- 相続や登記などの行政の複雑な手続きの効率化
事例紹介
Cordaの活用事例として「BunkerNote」というプロジェクトがあります。これは、デジタル化が遅れていた船舶燃料の企業同士が、船上での書面手続きを効率化するというもので、複数の企業による分散化された体制で、業務効率化を目指してます。
パターン2:デジタルアセット・マーケット
利点「ワークフローの効率化・自動化」の用いたビジネスパターンの二つ目として、「デジタルアセット」という用語が出てきましたが、これは、「実世界の何らかの権利をデジタル化したもの」と考えていただくと分かりやすいかも知れません。(BCによってお金のようにデータを扱うことができるようになったため成り立つパターンです。)そして、デジタルアセットを売買できるマーケットを創設するようなケースです。
BC活用アイデアを考えるポイント
BC活用にあたり皆様に着目して欲しいポイントは、「権利化して売買できそうなものはないか?」という点です。業界や企業の中で、売買できそうな可能性がある権利には、BC活用が効果を発揮します。他のパターンより、収益化の面での利点も多いので、新規ビジネス化に向いている領域だと考えています。活用余地を探るキーワードとしては、証券、利用権、所有権、予約券などです。
「権利」の売買とセットで「お金」に相当するデータをBC上で扱えば、売買取引と同時に決済を行うことができ、より確実な取引ができますし、商流と金流を統合して可視化できるので、企業戦略として有用なデータが取得できるようになるかもしれません。
適用アイデア例
- 不動産の投資証券
- 一般投資家が売買できる不動産のST(セキュリティトークン)マーケット
- コモディティ
- 中抜きが発生しなく仕組みで生産者に還元したり、価格を適正化できるコモディティマーケット
事例紹介
Cordaの活用事例として「Progmat」というプロジェクトがあります。これは、一般投資家も参加できるセキュリティトークン(証券)発行マーケットのプロジェクトです。単にマーケットというだけでなく、証券の発行・償還に関する業務を効率化していたり、証券を小口分割して一般投資家の購入ハードルを下げるという付加価値もあります。
パターン3:公正記録
利点「記録データの証明・活用」を用いたビジネスパターンの一つ目として、誰かに何らかの証明を見せることで価値が生まれるようなケースです。
BC活用アイデアを考えるポイント
BC活用にあたり皆様に着目して欲しいポイントは、「不正が発生する余地はないか?もしくは証明したいことはないか?」という点です。ブロックチェーン上に正しいデータを記録すること自体に価値があり、然るべき場面で証明や追跡調査ができることが重要です。活用余地を探るキーワードは、悪意の排除(偽物の防止など)、SDGs/ESG、規制準拠などです。
悪意の排除は、偽物をはじめ様々な不正行為を防ぐためにBC上への記録を解決策とします。SDGs/ESGは、例えば〇〇フリーの商品など、地球のために取り組んでいることの証明になります。マーケティングの要素が強い分、社内で案を通す際にも有効かもしれません。規制準拠はまさに、国が定めた規制に準拠していることを企業が公的機関に適切に報告するための方法としてBC上への記録が有効です。
いわゆる「デジタルツイン」についてブロックチェーンの文脈で見てみると、実世界の物理的なモノの証明をしたい場合、BC上への記録だけではなく「適切な入力者がBC上へ記入しているのか」「実世界の本当の情報を記入をしているのか」など実世界のモノとチェーン上のデータの紐付けを考慮する必要があり、システム以外の運用体制なども含め統合的な解決策を構築していく必要があります。
適用アイデア例
- トレーサビリティ
- 人権保護、自然保全、〇〇フリーであることの証明
- CO2排出量
- 排出量データの企業間の受け渡しの可視化
- 監査対応
- 企業活動の実績を監査会社に証明し、監査コストを下げる
事例紹介
Cordaの活用事例として「Bullion Integrity Ledger」というプロジェクトがあります。これは貴金属に関するトレーサビリティのプロジェクトです。貴金属なので、「偽物の防止」「自国規制に対する準拠」という意味での公正記録が重視される事例です。従来手法としてはマニュアル対応や企業同士の関係性の深さなどから公正性を担保していましたが、BC活用によって業務効率化も伴っていますし、デジタルアセットマーケット化や、デジタルアセットや取引履歴による担保融資機能もあるため、今回説明しているパターンは全て網羅しているパターンになります。
公正記録を行うことによって、パターン3のデジタルアセットマーケットのアイデアに繋げることができます。これは公正性を担保されることによって、市場での価値が高まったり安心して取引できるようになるためです。
パターン4:付加価値サービス
利点「記録データの証明・活用」を用いたビジネスパターンの二つ目として、データを記録することによって生まれる新事実を活用していくようなケースと、ブロックチェーンの性質による付加価値を見出すケースがあります。
BC活用アイデアを考えるポイント
BC活用にあたり皆様に着目して欲しいポイントは、「記録データを読み取ることで新たなビジネスに活用できないか?」という点です。活用余地を探るキーワードは、ファイナンスの高度化、ビッグデータ、等です。ファイナンスの高度化は、「融資条件の緩和」という付加価値の話。企業のこれまで見えなかった実績を信用情報に反映しようというアイデアです。ビッグデータは、これまで集計できなかったデータセットをブロックチェーン上から集め、切り口の違う分析を試みるというアイデアです。
もう一点の着目して欲しいポイントがあり、それは「コストの壁によって実現できなかったことをブロックチェーンで実現できないか?」という点です。活用余地を探るキーワードは、小口化とリアルタイムです。この二つは、これまでコストの影響で実現できなかったですが、効果が高いので、BC活用に実現しようという動きが出始めています。
新事実活用の適用アイデア例
- サプライチェーンファイナンス
- 商流の下流の大手メーカーに対する実績を根拠に、上流の中小企業に対し融資条件を緩和
- インボイス・ファイナンス
- 売掛債権の流動性を高めることで、融資条件を緩和
- ビッグデータ活用
- 商流やマーケットの売買データを解析し経営判断に繋げる
コストの壁を超える適用アイデア例
- 小口化
- 証券の小口化は管理コストが非常に高いがBC活用により実現可能に
- マイクロペイメント(少額送金)は送金コストの方が高かったがBC活用により実現可能に
- リアルタイム化
- 決済時間の短縮は、確認・承認コストが非常に高かったが、BC活用により実現可能に
- DvP決済は機能実現コストが非常に高かったが、BC活用により安価に実現可能に
BC活用の付加価値は、この二つの考え方だけに収まらず、もっと様々なアイデアが考えられます。例えばエクスロー取引の文脈では、仲介業務により管理責任の必要なアセットの一時保管をBC上で行ったりすることもできます。ここでは紹介しきれないアイデアも多いですが、皆様の業界への何らかの付加価値を考えるきっかけになれば幸いです。
事例紹介
Cordaの活用事例として「banco」というプロジェクトがあります。これはサプライチェーン・ファイナンスのプロジェクトです。詳しい仕組みは省略しますが、中核企業から脈々と繋がっている契約情報の連鎖を可視化することで、下層の中小企業が信用度を向上させ、ファイナンスを受けやすくするような考え方です。
まとめ
以上、4つのパターンを説明してみましたが、いかがだったでしょうか。あくまで筆者の考えるパターン分けなので、皆様の業界でのBC活用では、もっと素晴らしいアイデアが生み出されると思いますし、あくまでアイデア出しの参考パターンとして知っていただけると幸いです。
ここまでのメッセージを簡潔にまとめます。
BCビジネスパターンは組み合わせで考えよう
BCビジネスパターンを踏まえた活用アイデアの考え方は4つ
- 業務効率化:相手とのやり取りに改善の余地がある業務は何かないか?
- デジタルアセット:権利化して売買できそうなものはないか?
- 公正記録:不正が発生する余地はないか?もしくは証明したいことはないか?
- 付加価値:記録データを読み取ることで新たなビジネスに活用できないか?もしくはコストの壁によって実現できなかったことをBCで実現できないか?
特に、付加価値はもっと考えれば、たくさんアイデアが出てくるはず
BC活用に向けた具体的なアクションプラン
- 自社の中で、ブロックチェーン活用アイデアをブレストしてみる
- 活用アイデアのコアが4つのうちどのパターンになるか考えてみる
- コア以外にもどのパターンが適用可能か考えてみる
さて、第3章では、ブロックチェーンの利点を踏まえて、実際のBC活用ビジネスにはどのようなパターンがあるか見てきました。ここまでは、ブロックチェーンの種類などには触れてきませんでしたが、「ご紹介してきたBCビジネスでは、なぜ企業向けブロックチェーンがフィットしているのか」という点を第4章では説明していきます。若干技術寄りの話ですが、ブロックチェーン技術への体系的な整理にもなりますので、引き続きお読みいただけると幸いです。
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