本シリーズ記事では、ブロックチェーンビジネスのノウハウを体系的に学ぶことができます。第1回では、企業はWeb 3.0やブロックチェーンとどう向き合っていくべきなのかを説明します。
2024年「ブロックチェーンビジネス・アドベントカレンダー企画」1日目の記事です。 関連企業の皆様にも記事を書いていただく予定ですので、是非お立ち寄りください!
はじめに
ブロックチェーン技術(以下、BCと省略する場合あり)が注目されはじめてしばらく経ちますが、皆様の周りではこの技術がどの程度我々の生活を変えたか想像できますでしょうか。ご存知の通り、パブリックチェーンの世界ではDeFiやNFTなど様々なバズワードが飛び交い人気を博しており、それに追随する形で何とか自社のビジネスに組み込めないかと検討を進めている企業も少なくありません。
一方、プライベートチェーンの文脈では、パブリックチェーンとは少し違う形でこれまで発展を続けてきましたが、どちらも分散台帳技術であることに変わりはありません。本シリーズでは、このブロックチェーン技術を用いたビジネスの本質や、企業にとって何を目指してブロックチェーン活用を進めればよいのか、など企業目線で、ブロックチェーンビジネスの考え方を体系的に紐解いていきます。
本シリーズ記事の進め方
本シリーズ記事の構成は5章立てで説明していきます。忙しいビジネスパーソンに向けて先にまとめを示しておきますので、興味がある記事(章)までスキップしていただいても大丈夫です。
Web 3.0とは?
我々は、この図のようなお悩みをお伺いする場面がよくあるのですが、DAO,DeFi,NFTといったいわゆるWeb3.0のバズワードに関して「何とか自社でもうまい具合に活用できるようにしたい」と考える経営者の方も多いのではないでしょうか。特に取り入れやすいNFTの活用アイデアは様々な企業で展開されてきているように感じます。
ところで、Web3.0について検索してみると、Web1.0では「インターネット黎明期」、Web2.0では「ビッグIT企業によるプラットフォーム期」、Web3.0では「分散的なデータのやり取りを可能にする」というような紹介がされていることが多いようです。
Web3.0やバズワードは一旦脇に置いておく?
まず、「Web3.0やバズワードは一旦脇に置いておきましょう」というのが、最初にお伝えしたいメッセージです。なぜかというと、Web3.0に取り組むにしろ、企業としてBC活用を進めるにしろ、まずは根底にある「分散化」について一度考えてみて欲しいためです。また、企業がBC活用する際にとりうる選択肢はWeb3.0という枠組み以外にも様々なものがあるので、まずはそこを知っていただければと思います。
根底にある考え方は、「分散化」
Web3.0についてWeb1.0やWeb2.0と比較しつつインターネットの変遷を辿ることには大きな意味がないのかもしれません。我々がWeb3.0からまず学ぶべきことは「インターネットに限らず、様々な要素が今後、分散化していくだろう(すべきだ)」という考え方です。
ここで、Web3.0という言葉で括らずに要素例ごとに見てみると「トップダウンの運営では問題がある」、「独占的な企業によるデータ所有権や個人情報の問題がある」などの社会課題に対して「分散化」が解決策になる場合もありそうだ、といういうことを想像できるかもしれません。
企業としての向き合い方は?
Web3.0のバズワードとしてのNFTやDAOなどは、確かに社会課題を解決する上で有用なアイデアですが、企業にとってWeb3.0の考え方が自社のビジネスにフィットしているかどうかはまた別の問題です。
一方、「企業や業界が抱く社会課題」というのは、「Web3.0の背景にある社会課題」よりもはるかに対象が広いはずです。例えば、製造業界ではサプライチェーン課題、エネルギー業界で脱炭素化の課題など業界ごとに様々な課題が思い浮かぶでしょう。
「企業や業界の抱く社会課題」に対して、Web3.0の事例が有用となるケースもありますが、選択肢の幅を制限するのではなく、企業や業界の抱く社会課題に対して「分散化」による新たな解決策を試みていこうとするスタンスが重要です。そして、ある企業が寄与できそうな社会課題があれば、それを解決するためのBC活用アイデアも自ずと、生まれるのではないかと思っています。
もちろん大きな社会課題を解決するにあたって、一企業だけの力で成し遂げることは難しいかもしれません。ブロックチェーンビジネスでは、他の企業と協調して一つの社会課題に取り組んでいくことがとても重要です。(協調領域/競争領域については第5章で説明)
そもそも、分散化とは何か?その本質は?
さて、ここで一つツッコミがありそうです。「企業は中央集権的な存在なので、分散化の中では、むしろ淘汰されるべきものでは?」と考える方がいても不思議ではありません。これは「分散レベル」の違いなのかと思います。Web3.0では「個人」が分散化の対象ですが、ブロックチェーンビジネスでは「法人」が分散化の対象です。
個人/法人が分散する・・・??
と言われてもやっぱり難しく感じるかもしれません。分散という言葉だといまいちピンとこない方も多いと思いますので、とある水柱の言葉を借りると「分散化の本質」はこの一言に凝縮されています。
分散化の本質とは・・?
この言葉は、個人目線では「大事なことを簡単に他人に任せるな!!」という意味で、
- 私の大事な個人情報を簡単に渡したくない
- 私の購入したデータは私が管理したい
- 間接的ではなく、私が直接意思決定に関わりたい
という気持ちが見えてきますし、
一方、企業目線では、「ビジネスの根幹を他社に任せるな!!」という意味で、
- サプライチェーンの主軸企業に全ての情報を渡したくない
- 自社のサービスの運営を全てシステムベンダーに丸投げしたくない
- 権威的な企業の言うことを聞くしかない状況は作りたくない
という企業の気持ちが見えてきます。
企業目線のもう一つの言い換えとして「〇〇が信用できない問題」と置き換えてみるという手法もあります。これによって企業や業界の抱える社会課題が出てきやすくなるかもしれません。
- この工場の管理が信用できない
- 契約を巻く海外の企業が信用できない
- 車が適切な修理をしたのかが信用できない など
つまり分散化とは・・?
筆者なりに噛み砕いてみると、要するに「他者に任せすぎると良くないことが起こり得るから、自立した個人や法人同士で自己責任の取れる体制を構築して、対等な関係で運営していきましょう」ということが「分散化」なのだということだと覚えてもらえると幸いです。
Web3.0とは、徐々に進んでいくものだ。
「企業や業界の抱える社会課題を分散化(ビジネスの根幹を他社に任せない形)で解決できそうかどうか試していこう」というのがここまでのまとめです。
ゴールは企業次第で変わる
企業にとっては社会課題を解決することがゴールなので、目指すべき分散化の形はゴールに合わせて様々な形を取る可能性があります。一方、Web3.0は最終的に目指すべきミッションのようなものなので、ゴールの分散化の形も最終形になっているような気がしています。ゴールを達成できるなら、中庸な姿勢が現実解となるでしょう。(例えば、中小企業の代わりに地域の管理会社がまとめてノード運用をする等)
そこで下図のように、企業が取り組むべきは「Web 2.X」にあるのではないかと考えています。かこつけて「2.X」などと言ってはいますが、要は、「グラデーションで様々な解決策があるはずので、目的に合っていればそれでいいんじゃない?」ということです。
急激な社会変化はそうそう起こらない
先ほどの図には、もう一つメッセージが含まれていて、それは、生成AIやスマートフォンのように世の中をガラッと変える事例はあるものの、その境地までは至らずとも徐々に世の中が変わっていくケースが多いということです。
そして、Web3.0や分散台帳技術も社会実装が徐々に進むケースです。例えば、DAO(自律分散型組織)が一気にスタンダードになり、世の中から株式会社のほとんどがガラッとなくなることはあまり想像できないかもしれません。
そろそろ機は熟してきた・・?
時間はかかるものの企業同士による分散台帳技術の社会実装は、ようやく芽が出てきたフェーズが来ているようにも感じています。弊社の取り扱うCordaでは、CBDC(Central Bank Degital Currency)の事例で各国の中央銀行から注目されてますし、他にも非金融領域で、社会実装され実際に動いている事例も増えてきています。
まとめ
少し難しい話も挟んでしまいましたが、いかがだったでしょうか。企業や業界の社会課題を見つけることが、企業のBC活用の第一歩だということを説明してきました。Web3.0をご検討される一方で、これまでお話しした観点で自社や業界の社会課題を見つけ、BC活用のアイデアを探す一助となれば幸いです。
BC活用に向けた具体的なアクションプラン
- 自社のビジネスの根幹を他社に任せていないか確認してみる
- 業務の中で信用が足りていない問題はないか考えてみる
さて、第1章では、「分散化」に着目して説明してきましたが、
「結局、企業がどういう問題にどのように取り組めばいいか分からないじゃないか☹️!!」
というご感想も出てきそうです。第2章では「企業にとってBC活用はどう嬉しいのか?」という目線で説明します。ブロックチェーン技術は特に送金の事例から始まり、金融領域での活用が多いですが、非金融領域にも適用され始めています。ブロックチェーンのビジネス的価値を学んでいただくと、「偽物が横行しているから確実にユーザーまでの流通経路を追跡できるプラットフォームが欲しい」や「照合作業に大きなコストがかかっているので効率化したい」など、具体的なBC活用アイデアが見つかるのではないかと思います。
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