概念実証(PoC)の先の実用化を見据えて各社がそれぞれのビジネスモデルに落とし込む方法
はじめに
これまでの記事で、ブロックチェーン技術との向き合い方から始まり、パブリックチェーンやプライベート(コンソーシアム)チェーンの特徴や課題、ビジネスおよびテクニカルそれぞれの側面から捉えたときの応用可能性など網羅的に解説してきました。日本におけるテクノロジーのハイプ・サイクルから鑑みても、ブロックチェーン技術は「過度な期待」のピーク期をすでに過ぎて幻滅期へ差し掛かっており、机上の空論で捉えるのではなく現実的な目線でビジネスに落とし込んでいる事業主体が実導入(本番環境での利用)に向けて、着実に進めている段階まで来ております。
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そのような状況を踏まえると、より一層ブロックチェーン技術への本質的な理解を深めることはもちろんですが、概念実証(PoC)の先の実用化を見据えて各社がそれぞれのビジネスモデルに落とし込むことが非常に重要です。「どのようにすれば業務コストの削減が図れるのか?」「どのようにば新たな収益機会を得られるのか?」などを再考し、企業経営そのものの在り方を変革するツールとしてブロックチェーン/分散台帳技術を捉え、導入検討を進めていく必要があります。
ブロックチェーンは”実証”から”実用”のフェーズへ
2017年にビットコインを筆頭とする仮想通貨が世の中から大きな注目を浴び、それを支えるブロックチェーン技術が持つ特徴や仕組み自体の有意性が2018年ごろからやっと理解され始めました。2019年には実証段階から実用化のフェーズへ移ってきましたが、まだまだ数少ないのが現状です。2020年はより一層実用化が進み、デファクト・スタンダードになるブロックチェーン・ソリューションが世に出てくるでしょう。ブロックチェーンは第4次産業革命を推進するテクノロジーの1つであり、企業はAI、IoT、RPAなどその他の技術と組み合わせることで、業務の効率化や新たな収益機会を探る必要があります。
Cordaについては、金融業界の銀行コンソーシアムから生まれたブロックチェーン技術ではありますが、今では製造や広告、不動産などの非金融分野においても様々なアプリケーションがCorda上で開発されています(120種類以上)。
ブロックチェーン/分散台帳技術は業界にかかわらず、ビジネス上で社外との取引が発生する、あるいは価値ある情報を共有する場面においては必ず力を発揮します。仮想通貨を支える技術が「ブロックチェーン/分散台帳技術」という理解の範囲では、新たなビジネスチャンスを逃すよりほかありません。
今までもブロックチェーン/分散台帳技術の特徴については、あらゆる観点から述べてきましたので、以下をご参照いただければ幸いです。ここでは、その技術的特徴を活かすとどのような未来が待っているのかについて、簡単に述べていきたいと思います。
ブロックチェーンは単なる電子化ではないのか? ~ブロックチェーンで世界を変えるための第3歩~
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ブロックチェーン/分散台帳技術で実現できる未来
ブロックチェーンを導入すると、よく「中間コスト」や「仲介業者」を省くことができる、「非中央集権」や「トラストレス」な世界になる、などを耳にしたことがある人は数多くいると思います。これはどういった仕組みで実現できるのでしょうか?
基本的にはビジネス上のあらゆる取引は、たった一つの取引だけでも様々なプレイヤーが関与します。例えば、金融分野の債券における機関投資家同士の取引に関しても、取引当事者や証券会社、銀行、信託銀行などの主体が存在しており、それぞれが資金決済や有価証券決済の役割を担う、いわゆる仲介業者がいます。従来の業務プロセスでは、ここの役割を担うプレイヤーの業務コストが中間コストとして搾取されていました。
法規制上の制約もあり、すべての仲介業者を排除することはできませんが、ポストトレードの領域でアナログな業務フローが行われていた分の中間コストの低減は少なくとも望めるのは明白な事実です。ブロックチェーン上でリアルタイムに取引データが関係各社に連携されて、取引内容が改ざんされない形で各社のデータベースに記帳されます。そして所有権の移転および決済(DvP)を安全にかつ早く自動執行できることで、リコンサイルやリスク・マネジメントの必要性がなくなり業務負荷が圧倒的に激減します。取引当事者間のみで取引がEnd-to-Endで完結する世界が理想ではありますが、こういった場面で少しずつブロックチェーンを応用していくことにより、ゆくゆくは資金決済や有価証券決済を管理する主体が中央集権的にサービスを提供するのではなく、非中央集権的に分散されたネットワーク上で役割を果たしていくことにより、トラストレスな価値の移転がデジタル上で実現する未来が待っているのです。 ブロックチェーンのビジネス活用を検討する上での第一歩
また金融だけでなく非金融の分野においても同様の考え方で、ブロックチェーンを活用することによりデジタル上での自由な価値の移転を実現することが可能です。例えば、最近ではサプライチェーン・マネジメントの領域で導入が活発になってきておりますが、最初のアプローチとしてはトレーサビリティや受発注プロセスの効率化が取り組みやすい入り口です。
トレーサビリティの場合は、物の動きを追跡しエンドユーザー(消費者)へ付加価値の高い商品を届けることが主たる目的ですが、それだけを実現するのであれば既存の中央集権型システムでも実現できてしまいます。これだけではブロックチェーンを導入する投資対効果(ROI)がなかなか得られないのです。しかし視野を広げて考えてみると、物のトレース情報が対改ざん性を持った価値あるデータとして扱えるようになると、その取引から発生する受発注書(契約書)の情報と結びつけることによって、サプライチェーン全体での受発注プロセス効率化および自動化も実現することができます。逆もまた然りで、受発注プロセスの効率化だけ取り組んでも既存の中央集権型システムで代替することができ、あまりブロックチェーンを導入するコストメリットを発揮できませんので、サプライチェーン全体での活用を視野に入れてビジネスモデルに落とし込みしなければなりません。
そこでさらにビジネススコープを拡げて考えてみると、ビジネス取引には必ずお金のやり取りが発生します。最終的な現金化/資金化もブロックチェーン上で、あるいはブロックチェーンを通じて実現できないかというところまで考えてみましょう。ここに関しては、金融領域とのデータの相互運用を検討しなければなりませんが、基本的に物流および商流の情報はすべてデジタル上のデータ(価値)として扱うことができておりますので、これらのデータを既存の金融システム(オフレッジャー)とAPI接続して、あるいはブロックチェーン基盤間を接続しトークンとして、リアルタイムに決済/資金化が実現できます。それにより、今までは取引先企業の支払サイトによって、その企業の資金繰りが左右され、経営が厳しい状況に陥る中小企業も少なからずありましたが、即時に決済や融資を受けられるようになることで、経営そのものを変革することができるようになります。ビジネススコープを拡げれば拡げるほど、投資対効果が大きく得られるようになるのです。
デジタル上で価値を取り扱えるようになると、既存業務プロセスの効率化に伴うコスト削減はもちろん、今までは自社のみでしか在庫の一元管理化はできなかったものが、サプライチェーン全体での一元管理化が実現し、さらには需要予測に応じたプロダクト生産戦略も緻密に計画することができます。また新たな資金調達の手段として、取引の流れを見える化することにより、キャッシュフローによるトランザクション・レンディングができるようになります。そして在庫情報も明確になるので、在庫を担保にするインベントリー・ファイナンスも実現します。
このように、サプライチェーン上における様々な業務領域でメリットが得られると同時に、企業同士のシステムが分散された状態でも実質的にブロックチェーンで繋げることにより、中央集権的にシステムを構築し運用・管理する主体がいなくても、自律分散的にデジタル上で価値の移転が可能になります。いわゆる、分散型のネットワークが構築され、あらゆる取引がデジタル上で完結しトークンエコノミーの世界が到来します。
トークンエコノミーにおける「Corda」の有用性
さて、このような世界でブロックチェーン/分散台帳技術である「Corda」はどのような手助けをするのでしょうか。ブロックチェーンの世界には大きく分けて、「パブリックチェーン」と「プライベート(コンソーシアム)チェーン」の2つがあることやCordaの大きな特徴についてはすでに解説しました。
エンタープライズ企業がブロックチェーンの基盤選定でパブリックチェーンを避ける理由
エンタープライズ企業のブロックチェーン活用におけるプライバシー確保の課題 -Cordaにおけるプライバシー確保-
Bitcoinから始まったブロックチェーン技術ではありますが、各プラットフォームにより設計思想や概念、仕組みというものはバラバラです。しかし、見据えている未来に関しては、共通な部分が大きく存在しています。分散された価値あるデータ(資産)をトークンとしてデジタル上で取り扱えるようになることで、あらゆるサービス機能がシームレスに接続され、価値の移転が安全にかつ迅速にできるようになるということです(いわゆる価値のインターネット)。
それを実現するために、Cordaはプライバシーの確保とインターオペラビリティの実現を特徴として備え、デジタル上での価値の移転を可能にしています。ビジネス取引の要件を満たす形で、取引当事者間でのみデータの共有が行われ、同一基盤(Corda)上であれば相互運用性を確保することができるのです。その他にも企業がブロックチェーンを導入するにあたり、検討すべき要素である開発者確保の容易さ(開発言語としてJava/Kotlinを採用)や高いスケーラビリティ、後方互換性の保証、ローリングアップグレード対応などビジネス要件を満たせるように設計/開発されています。
また企業がブロックチェーンを導入する際には、必ずプラットフォーム比較を行う必要性がありますが、ビジネスやテクニカルなど様々な観点から要件を満たすような比較軸で検討することがとても重要です。
Cordaは後発のブロックチェーン/分散台帳技術で、既存のパブリックチェーンや競合のプライベートチェーンなどにおけるビジネス活用する際の欠点を補うような設計思想で開発されました。ユースケースによってそれぞれのプラットフォームが活躍する場面は異なりますが、その中でもCordaはエンタープライズレベルで実装するには十分な機能/非機能要件を充足しています。Cordaを活用することで、既存の業務プロセスの効率化や新たなビジネス機会の創出が望めることはもうすでに理解していただいたかとは思いますが、今後10年間でますますテクノロジーの進化により私たちの生活がより便利に、より豊かになることは容易に想像できます。そのテクノロジーの1つとしてブロックチェーン/分散台帳技術があり、トークンエコノミーの世界(価値のインターネット)の時代が到来するころには、Cordaは欠かせないツールとして使われているでしょう。
おわりに
グローバルではすでにあらゆる業界でブロックチェーン/分散台帳技術の導入が進んでおります。日本は少し遅れ気味ではありますが、規制環境も徐々に整ってきている中で、1人ひとりが自身の携わるビジネスと真剣に向き合い、「どのようにすればもっと生産性をあげられるのか?」「どのような場所にビジネスの種があるのか?」などを考えれば、いつかどこかのタイミングでブロックチェーンの必要性を感じる場面が出てくると思います。その際はCordaを思い出していただき、ご一緒にデジタルトランスフォーメーションを進めトークンエコノミーの世界(価値のインターネット)を創っていきましょう。
<ご質問・ご要望の例>
- Corda Portalの記事について質問したい
- ブロックチェーンを活用した新規事業を相談したい
- 企業でのブロックチェーン活用方法を教えて欲しい 等々