Cordaを活用したサプライチェーンの電子化、特に『Deep Tier Financing』という新しいサプライチェーンファイナンスの考え方を学ぶことができます。
ブロックチェーンで製造業を支える金融ソリューション on Corda — 前編—
1.はじめに
世界3大エンタープライズブロックチェーンといわれ、世界の金融機関を中心に採用されるCorda。
特に最近はサプライチェーンの分野で注目されており、8月24日、25日に東京で開催されたFin/Sum -BG2C-では、豊田通商システムズよりCordaを使ったトヨタグループ電子商取引基盤プロジェクトが発表されました。
↑トヨタグループ電子商取引基盤プロジェクトは動画3:26より
このプロジェクトでは電子契約の電子化から始まり、将来的には見積もり・請求書の発行、受発注、精算等のサプライチェーン全体をCordaを使って電子化する予定だそうです。
さて、今回この記事では、『Deep Tier Financing』というサプライチェーン上の企業に運転資金をスムーズに提供するサプライチェーンファイナンスの1つの考え方を、ブロックチェーンで実現するアイデアを紹介したいと思います。
これは、例えばトヨタのような大規模なサプライチェーンを有する企業の下層のサプライヤーに対し、トップのバイヤーの信用力をもって融資するという考え方です。しかし仕組みが少し複雑なので、まずはブロックチェーンを使うとサプライチェーンでどんな嬉しいことがあるの?サプライチェーンファイナンスって何?というところをお話したいと思います。
2.ブロックチェーンを使うとサプライチェーンでどんな嬉しいことがあるの?
サプライチェーンは製品が生産者から消費者まで届く一連の流れを指しますが、実際はかなり多種多様です。いったん縦のサプライチェーン、横のサプライチェーンという分類で整理してみました。(分類は勝手に作りました)
縦のサプライチェーン例:自動車メーカーだとトヨタ、デンソー、デンソーにエンジン用の部品を提供する企業など、木の根のように上から下に伸びるサプライチェーン。1つの製品の完成までに様々な企業がかかわる。横のサプライチェーン例:三井物産、商船三井、オーストラリアの鉄鉱石サプライヤー等異業種の企業がかかわるサプライチェーン。貿易など。
これらのサプライチェーンには共通した課題として
・サプライチェーン全体の可視性、透明性に欠ける・紙や電話、メールベースのやり取りと手作業の多さが、余計な業務コストとオペレーショナルリスクの増加を招く
を抱えています。今はサプライチェーン上の企業間のやり取りで紙や電話、メールが主に使われており、各社がバラバラに情報のやり取りをしています。これが1つのWeb画面上で、サプライチェーンの川上から川下の商品・材料・部品のリアルタイムな情報が見れる、かつ発注や請求・決済もボタン1つでできれば便利です。その裏側の仕組みにブロックチェーンが役に立ちます。
ブロックチェーンは信頼できる情報を当事者同士で共有することを可能にしますが、結果的にサプライチェーン全体の最適化(=サプライチェーンマネジメント)や企業のコスト削減に寄与します。
*ブロックチェーンとサプライチェーンマネジメントの詳しい解説はこちらに
3.サプライチェーンファイナンスってなに??
『サプライチェーンファイナンス』とはサプライチェーン上にある企業に融資することに他なりません。
通常、金融機関が企業に融資する場合はお客さんの信用情報、つまり数年分の決算書等の情報を金融機関に提出してもらい、信用力の評価を行います。
サプライチェーンファイナンスの場合、日ごろの発注書や請求書等の取引の情報を金融機関に連携することで、決算書を提出する代わりにサプライヤーの信用力評価の材料とし、必要なときにスムーズに運転資金を融資することが可能になります。
具体的な例として縦のサプライチェーン、ここではバイクのサプライチェーンを見てみましょう
完成品であるバイクを製造するメーカーは、すべての部品を自社で製造しているとは限りません。多くの場合エンジンやタイヤをそれぞれメーカーに発注しています。またそのエンジンやタイヤのメーカーも、使われているネジや細かい部品を自社で製造せず部品メーカーに発注することもあります。
この縦のサプライチェーンにおいて、ブロックチェーンを使ってサプライチェーン上の受発注データを可視化できているとしたら、バイクメーカーやエンジンメーカーは自社が製造する製品に必要な部品のリアルタイムな情報が1つのWeb画面上で見れるでしょう。そればかりか発注書や請求書もデジタル化されてボタン1つで処理できればとても便利ですね。(もちろん既存のERPやSCPシステムの裏側の仕組みとしてブロックチェーンを接続する使い方もアリです)
また、エンジンやタイヤの部品の発注書や請求書のデータが金融機関に連携されていれば、決算書等を提出せずともこれをもとに信用力の評価が可能になり、必要なときにスムーズに運転資金を調達することが可能になります。(=サプライチェーンファイナンス)
サプライチェーンファイナンスがもたらす嬉しいことを整理するとこんな感じです。
完成品メーカーからすれば、下流のサプライヤーが資金不足に陥って部品が一部でも届かなければ、不利益をこうむります。コロナウイルスの影響で中国に生産ラインを持っていたメーカーが軒並み大打撃を受けたことが記憶に新しいですが、持続可能性の高いサプライチェーンを実現することは完成品メーカーにとって非常に大切なことです。
少し寄り道になりますが、日ごろの取引の履歴データを元に融資をするビジネスは既存の金融機関以外にもどんどん増えています。
有名なところでいうと、Amazonや楽天はECサイトに出店している事業者向けに融資するサービスすでに提供しています。プラットフォーム上に事業者の日々の売買履歴が残るので、これを信用情報として融資を行うのです。これらはトランザクションレンディングと呼ばれています。
また、クラウド会計ソフトのfreeeも、利用企業の財務データを分析して提携企業の金融サービスのレコメンドと与信額の計算を自動で行うサービスを提供しています。
元々は非金融の分野にいたIT企業が、どんどん金融サービスを提供するようになっている昨今のトレンドは、ビジネスマンにとって押さえておきたい教養の一つです。
<ご質問・ご要望の例>
- Corda Portalの記事について質問したい
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