「Newノーマル」の時代に向けて、ブロックチェーンがどのように役立つか。通勤や企業間取引など、今までの「普通」に疑問を投げかけ、デジタル化や効率化を促す。
はじめに
新型コロナウィルスがこれまでの”普通”を変えようとしています。With コロナの現在(5/22時点)、多くの識者がNewノーマルという言葉で来るべき時代の行動様式を予言しています。図らずも、コロナ禍がショック療法となり、エンタープライズの世界における業務上の”普通”に疑問符を投げかける良いタイミングとなってしまいました。改めてブロックチェーンが、”デジタル禍”の最中で何を変えていくのか、一緒に考えていきましょう。
「普通~するでしょう?」
私たちはよく”普通”という言葉を使います。共通認識として社会規範としての”普通”が存在することは事実です。日本人は多くの場面で”普通”であることが期待されます。しかし、この”デジタル禍×コロナ禍”の今、私たち一人ひとりは”普通”に行動していてはいけないと学んでしまいました。過去に3.11で”普通”にプロトコルに従っていた上司は、緊急会合で年下の部下に怒鳴られていました、と聞いたこともあります。今回こそ普通が普通じゃなくなった時代の空気を読み取り、日々の行動を見直していきましょう。大好きなビル・ゲイツも先駆けて「今までの普通にはもう戻らない。」言ってます。
And a lot about everyday life has probably been changed forever. by Bill Gates
私たち働く社会人にとって一番の変化は、普通に「通勤しなくなったこと」かと思います。POCなしでいきなり本番運用が始まったかのように、ある日突然リモートワークが始まりました。事務所の固定席で仕事する日常が普通だった人にはこの上なく不便ですが、普段からノートパソコンを持ち歩いてリモート接続していた人は、通勤しなくてよくなった分、”手取り時間”が増えて、業務効率アップです。何もよりも「監視されていない」という精神的な負担軽減が定性効果として大きいでしょう。この快適さからはもう戻れません。Afterコロナの時代、今のような完全リモートが続くことはないかもしれませんが、Beforeコロナのように、全員通勤することもないでしょう。業務効率の観点から上手くバランスを取った新たな勤務体系へと移行し、それが普通となるでしょう。
エンタープライズの世界における”普通”
さて、企業間取引の現場では、メールや電話でコミュニケーションを取り、手作業でExcel管理するのが”普通”です。社内システムももちろん利用しますが、使い勝手が悪いければやはり手元でExcel管理するのが確実で信頼出来ます。急ぎの時はメールより直接電話です(最近は電話の捉え方が変わってきていますが、少なくとも私の世代は直接電話が営業マンの基本姿勢です…)。ただしここにはオペレーショナル・リスクがつきまといます。オペレーショナル・リスクとは、一言では言えないのですが、一言で言うと「業務上のミスにより損失を被るリスク」のことを指しています。現実には「私、失敗しないので」とはいきません。失敗するとそれは”事故”と呼ばれます。10万円、20万円の失敗なら”ミス”で済むかもしれません。10億円の失敗だと「うっかりしてました」では済みません。B2Bの世界において、オペレーショナル・リスクは、外の人が思っている以上に脅威であり、上の人にとっては恐怖であり、現場レベルでは謝罪で済まない話です。
それにも関わらず、私たちはなぜメールや電話を好むのでしょうか。日々メールや電話を使う仕事スタイルが普通過ぎて気付かないかもしれませんが、メールや電話には次の3つの要件が揃っていると考えられます。
①すぐに相手に伝えられる(つまり早い)
②とりたてて費用が掛る訳ではない(メール1通、1通話のコストはほとんど意識しません)
③直接伝えることが出来るので確実・安心(ニュアンスも伝えられる)。
③について少し考えてみます。
P2Pが最も重要なファクター
私たちが業務上取り扱う情報は全て機密情報です。ペラペラと誰にでも話してはいけません。加えて最近なら、Zoom, Teamsでオンラインミーティングをするときは、”デスクトップ”を整理整頓して、うっかり”見てはいけない画面”を共有しないよう気を付けましょう(泣)。
情報漏洩を防止する観点からは、出来るだけ情報の共有範囲を狭めて、他部署はもちろんのこと、隣に座っている同僚にも伝えない方が安全でしょう。この点、メールであれば関係者だけに同報することが出来ますし、電話であれば完全にピア・ツー・ピアで証拠の残らない伝達手段です。この”プライバシー感”が業務の現場に非常にフィットするのです。さらに、相手方と直接つながることで、情報の取得・確認に確実性が増します。又聞きではなく、顧客が直接書く文章、話す言葉が”事実”です。この真実性と正確性は、業務担当者に安心感を与えてくれます。(ブロックチェーンの用語で言うと真正性ですね。)
図らずしも機は熟した
コロナ禍においても、企業間取引の現場に求めらえる要件が変わる訳ではありません。変わったのは、リモートワークにより職場環境が分散化されてしまい、社内のコミュニケーションを取りづらくなった点だけです。お客様にはメールと電話でいつでも会いに行けます。とは言え、「今まで通りで良い?」との問いに対し、この状況でYesと答える人はいないでしょう。むしろこれを機に、これまで”普通”だった非効率でリスキーな業務プロセスを解消しようと思っている業務企画担当者は多いのではないでしょうか。おそらく自社の担当者だけでなく、お客様側も同じように思っているでしょう。With / Afterコロナ禍の今ほど企業間を跨いだ業務改革に適したタイミングはないのです。
念願の情報一元管理!?
さて、何をどう変えていけば良いでしょう?コロナで職場がバラバラになってしまったのですから、やはり「情報を集約しよう」という発想が一番自然です。情報を一元管理できれば効率的に業務を処理できそうです。集中型、中央集権型が次世代のソリューションです。
と思いにふけていると、気付いてしまうことがあります。
具体的な状況を踏まえないで、イメージだけで話していると、よく勘違いしてしまいますが、今も昔も企業間取引は分散型で行われています。情報を一元管理している(しようとしている)のはあくまで社内の話であり、会社横断で眺めてみると、各社が独自に持つデータベースが点在していることが分かります。企業がこれまで取り組んできたクライアント・サーバー型もしくはWeb型の社内システムは、社内での情報集約に貢献した一方、会社間を跨いだ業界レベルでは、分散化を加速させてしまいました。その結果、取引の相手方が社内で保存しているデータは、自社からはもちろん視えませんし(Visibilityなし)、もちろんそのまま信じるなんて出来ないのです(相手がどう記帳しているか知ったこっちゃない)。
バイヤー(B社)は、サプライヤー(A社)の社内システムに保存されているデータに基づいて請求されても、自動支払出来ません。社内システムはそこまでスマートではありません。
だから情報の一元管理は会社横断で求められているのです。
集中化は本当にできるのか?
どの時代にも抵抗勢力は存在しますが、ブロックチェーンの業界では特にその傾向が強いように感じます(泣)。中央集権派でブロックチェーン不要論を唱える人は、ブロックチェーンがなくてもRDB+APIで同じことを実現出来ると言います。取引や契約のように企業が社内で管理すべき情報を、一か所に集めるなんて本当に出来るのでしょうか?
企業が取り扱っている情報は機密情報です。そこには”原価”だったり、”ピンハネ”であったり、ダークな世界の”キックバック”であったりと、とても他社と共有できる内容ではありません。これを仮に一か所に集約したとすると、この集中サーバーのリスクは異常に高まります。そもそも誰がこの集中サーバーを運営できるのでしょうか?また、うっかりすると、あらゆる企業の”見てはいけない情報”が世に晒されてしまいます。この場合誰が責任を取れるでしょうか?管理者がオペレーショナル・リスクを顕在化させない保証は?あらゆるリスクに備えて、この集中サーバーの管理手数料は自然と高額になってしまうでしょう。エンドユーザーは払えるでしょうか?
「貴重品は入っていませんか?」
最近はリアルイベントがなくなってしまって、こういう機会があまりないのですが、レストランやホテルで立食パーティーがあると、「クローク」と呼ばれる受付に、手荷物を預けます。ここで鞄やコートを預けますが、携帯と財布だけは忘れずに抜いておくでしょう。なぜでしょうか?別にクロークを疑っている訳ではないですが、やはり安心出来ませんよね?自分で稼いだ”価値”が入っている”ウォレット”を、誰かが一か所に集めている場所に預けたくないのです、たとえマンダリンオリエンタル東京であっても。財布は自分の手元に置いておきたいです。
いいとこ取りは出来ないか?
私たちは機密情報は手元で保存しておきたいですし、”ウォレット”も自分たちで管理したいのですが、一方で取引の相手方と認識相違なくコミュニケーションもしたいのです。電話はメールだとヒューマンエラー発生の余地を完全に失くせません。
でも私たちには、ブロックチェーンがあります。
電話やメールを使わなくても、共通のアプリケーションを使えば、相手方とシームレスな取引環境を構築でき、一つのアプリケーションで取引を完結させることが出来ます(電子的にハンコも押せます)。でも機密情報は?これまで通り手元に置いておけば良いのです。機密情報は共有したい取引の相手方とのみ、共有すれば良いのです。頑張ってデータを集中化する必要はありません。レガシーを置き換える必要もありません(置き換えてもいいですが)。
既に事例も出てきています
SBIリクイディティー・マーケットのFXコンファメーションやイタリア全土にロールアウトされる銀行間決済のリコンサイル事例においては、オペレーショナル・リスクを軽減する目的で、これまで電話やメールで連絡していた業務を標準化、ブロックチェーン・アプリで取引を完結出来るようにしています。申し訳ないぐらい地味な取り組みであることは重々承知です。正確・丁寧な業務処理が得意な私たち日本人は「それぐらい頑張ってやれよ!」と言いたいですが、実はこれらの事例が世に問いかける課題は、単なる業務の変化だけではありません。
競争力で戦わない
歴史的に日本企業はその事務処理能力の高さを競争力の源泉としてきました。外国企業で働いたことのある人はおそらく同じ経験をしたことがあると思いますが、日本人が”普通”に期待することを、外国人の同僚や顧客はやってくれません。「後で確認します」は「早くこの話題を終わらせたい」ですし、「今週中に資料を送ります」は「今週中はたぶん無理」であったりします。
まあともかく、ブロックチェーンが世の中に導入されていくのに伴い、データやプロセスは標準化され、個人による認識のバラつきはいずれ収束していくでしょう。会社を跨いで業務品質が向上していきます。その結果、正解主義の国民性を背景に、阿吽の呼吸で効率よく捌いてきた私たちは、その優位性を失うタイミングがいずれ来てしまうのです。今その岐路に立たされている事実を認識しましょう。もうオペレーショナル・エクセレンスでは戦えないのです。上述したように、既にクラスターが発生しています。緊急事態宣言発令です。
むしろ協奏力を高める
ブロックチェーンのプロジェクトは”普通”、アジャイルで短期間にプロトタイプを構築し、そこに小さなイチを足していくアプローチを取ります。最初のプロトタイプは、「オペレーショナル・リスクを軽減する」という地味な目的で始めても構いません。何か目に見えるタンジブルな叩き台が出来上がると、そこから「この商品も扱えるようにしよう」、「この業務もカバーできるようにしよう」と、アイデアが溢れ出て止まらないものです。小さく始めて、そこから商品性・業務プロセス・参加者の視点でスコープを広げていく、この戦略で”協奏力”を高めていきます。競合相手にもメリットある仕組みを提供しつつ、エコシステムの中で主導的な役割を担って自社のポジションを確立する。このリーダーシップが顧客からの信頼を勝ち取り、結果的に競争優位に立つ。これが競争力に代わる、コロナ禍における新しい時代の協奏力です。
どう始めたらよいか?
Cordaの場合、Cordaのエキスパートであるパートナーたちがハンズオンでの経験を蓄積しています。最近では、Consensus Baseは保険のユースケースに取り組んでおり、LayerXはCordageと呼ばれるインターオペラビリティー・プロジェクトに取り組み、またプラットフォーム基盤比較でも業界を先導しています。このようなCordaパートナーに相談すれば、貴社とその業界に最適な協奏の仕方を提案してくれるでしょう。
Afterコロナ禍の世界により良い名前を付けてあげられるよう、そろそろ世界を変えるための第一歩を踏み出してみませんか?
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