事実がデータとして価値を保つために必要な要素。
はじめに
しばしば「ブロックチェーンにしか出来ないことはありますか?」と聞かれることがありますが、コロナ禍において「変わったこと」と「変わらなかったこと」を考えてみると、自然と答えが見えてきます。WithコロナからAfterコロナへ移行する現在(もしかしたらStill withコロナへ移行かも…)、デジタル・トランスフォーメーションの一環として企業は何に取り組むべきなのか、コロナ前後の変化を業務の現場に降りて拾ってみましょう。外部のオンライン・イベントに参加しなくても、テーマは社内に転がっています。
さて、今回は少し遠い話題からブロックチェーンにアプローチしてみたいと思います。上記は筆者が実際に「働き方改革」してみたワンシーンから。
働き方改革(の一部)は一瞬で実現した
働き方改革にはいくつかのテーマがありますが、その中でもテレワーク(リモートワーク、在宅勤務制度)は2020年3月、4月で、突然実現してしまいました。「はい、来週からテレワーク開始します」といきなり宣告を受けた方も多かったかと思います。中には手元にパソコンがなく、”電話(通話)”だけで業務をこなす人も現れました。ただ、多くの人はもともと支給されているノートパソコンに、自宅のインターネット環境を通じて、無事業務を継続できたかと思います。
もちろんコロナという外部要因が、強制的にこの働き方改革(の一部)を実現してしまった訳ですが、もう少し落ち着いて分析してみます。なぜテレワークは実現できたのか。
よくよく考えてみると「技術的には昔からテレワークは実現可能」でした。携帯は一人一台、ノートパソコンもあるし、インターネット環境、Skypeも。昔ならあり得ないチャットアプリも仕事で使います。これらがあればテレワークは余裕です。しかし、多くの企業ではこれまで、テレワークに伴う様々なリスクに想像を膨らませていたため、いつまでも導入が進みませんでした。
ざっくりテレワークの導入は下記ステップを踏みます。
3か月~6か月という期間でスケジュールを引いて、周囲の合意を得ながら徐々にテレワークに必要な体制を整えていきます。しかし、今回起きたことは、
コロナ発生からいきなり導入の運びになりました。そして事後的に方針やルールを見直しつつ、トライ&エラーを繰り返しながら、現場と調整してどうにか業務を回しました。このようにフライング気味に”まずはやってみる”というアプローチは現場を劇的に変える上で大変有効です。
テレワーク、やってみたら、意外にできた
テレワーク導入に伴う漠然とした不安や懸念は杞憂に終わったのではないかと思っています。例えば、法人向け営業の担当者にとって、顧客オフィスへの訪問、そして対面でのご説明は、顧客との信頼関係を築く上で必須と考えられてきました。もしくは、社内においても、同僚との会話や報連相は、やはり同じ空間を共有していた方がやりやすい、との考えが多数派だったと思います。これらの”コミュニケーション”は、Beforeコロナにおいても、メッセンジャーを始めとしたツールによって既に効率化が図られていましたが、コロナ禍による強制リモートの場面において、その有効性は再実証されました。そして、エンタープライズの世界における、コミュニケーションの常識を完全に変えてしまいました。今では、会議は”オンライン”が当たり前です。社内の情報共有は1対1よりもメッセンジャーを使った方がより多くの人へ効率的に伝達できます。分かってはいたけど、やはりそうだったかぁ…です。このコミュニケーションの効率化に技術的な課題は元々なく、根強い”現場感”だけが導入のハードルでした(筆者も残念ながら抵抗勢力の一人でした…)。これをコロナ禍が超えさせたというだけです。
それでもなお出社を求めるか
さて、逆に「変わらなかったこと」は何でしょう。コロナ禍においても、何名か相変わらず出社していた人々がいました。この人たちの言い分は、「紙の契約書を処理しなければいけない」です。もちろん”押印”も必要です。これらは物理的に現場に足を運ばないと出来ません。契約書もオンライン化してしまえば良いと思うかもしれませんが、それほど単純ではありません。なぜなら契約書には原本性が求められるからです。この原本性は紙でないと得られません。
筆者の場合は「承認ボタンを押しに行く」ために何度か出社していました。これも「本人じゃないといけない」、かつ「イントラからじゃないとアクセス出来ない」ためです。
これらの事務は”事実の記録”と呼ぶことが出来ます。適当な誰がか適当にやるのではなく、「特定の環境において」「特定の誰かが」「ある事項を確認し、合意して」行う必要があるのです。単なるコミュニケーションとは異なり、”完了性”も求められます(ブロックチェーン的に言うと)。ということで、これに対応するツールはメッセンジャーではないのです。
ちなみに雑談ですが、「オンライン・ミーティングに出席するために出社する人」というパターンも存在しました…
本当に”事実の記録”はメッセンジャーでできないのか?
と整理してみると、本当に”事実の記録”はメッセンジャーでは出来ないのか?という疑問が湧いてきます。感覚的には出来なさそうですが、検証目的で試しにやってみました。
例えば「給付金の支給」というやり取りを、山田と自治体間とでやってみました。上手くいかなさそうです。メッセンジャーの画面は単なる情報のキャッチボールでしかないので、これだけでは実際に特別定額給付金10万円を動かすことは出来ません。また、この画面をコンビニに持っていてもお釣りの受け取りに困りそうです。ブロックチェーン的に表現すると、「第三者からすれば、このやり取りが本当に事実なのか確認のしようがない」とも言えます。
メッセンジャーでのやり取りはシステム的にみると、何らかのメッセージング・サービスを山田と自治体が共有して使うイメージになります。
ここでは例えば山田メッセージサービスという会社を使ってやり取りをしてみました。すると、これを外から見ている第三者からすれば「何だこれは!」となります。特に山田メッセージサービスとは何の会社だ!信用ならん、となります。
LINEなら大丈夫なのか?
確かに山田メッセージサービスという会社は信用なりません(というか存在しません)。では「LINEなら良いのか?」という次の疑問が湧いてきます。LINEは2020年7月現在で8,400万人以上が利用する信頼できるサービスです。しかし、いくらLINEでも”事実の記録”までは出来ません。なぜなら、ここでやり取りされるモノは単なるデータに過ぎないからです。これはどういうことでしょう。そもそもデータとは何なのか復習してみます。
データには上記二つの特徴があります。1.書き換えが出来て、2.コピーが出来る、この特徴があるが故に「データは事実になれない」のです。みなさんが手元で管理しているエクセルをイメージして頂ければと思います。そこに”100円”と書いても、本当の100円にはなりません。”100円”という文字列です。”100円”という文字列は簡単に”1,000円”に変更できてしまいます。また”100円”と書いたエクセルファイルをCtrl+C → Ctrl+Vすると、”200円”になってしまいます。
このデータの特徴を踏まえた上でもなお、データをどうにか事実として記帳出来ないかと考える人もいます。なんとこれは出来ます。データの管理者が絶対に正しいと仮定すれば良いのです。山田メッセージング・サービスが正しいと仮定するのです。データの管理者が”100円”と書き込めば、それを100円相当のデータとして使うことが出来る、と管理者がルールを決めます。ポイントカードもこの考え方です。さて、このやり方は上手くいくでしょうか。答えは明らかです。データの管理者が絶対に正しいとするやり方の欠点は、「データの真実性をデータの管理者の信用に依存してしまう」点です。
あれ、データは新しい石油ではなかったの?
ここまでを振り返ってみると、データって実は大したことないんだなぁと感じるかもしれません。そして、誰もがプラットフォーマーを目指してデータを収集しようとしている昨今のトレンドに矛盾するのでは?と感じる人もいるかもしれません。これは少し文脈が違っていて、ビッグデータのようにあらゆる種類のデータを膨大に集めて分析するのは、そこから”洞察”を得るためです。それを「事実として扱う」かはまた別問題になります。
今こここで議論しているのは、大量のデータではなく、一つのデータを取り上げて、それが事実かどうかということです。少なくともメッセンジャーではデータを事実として記録できません。
じゃあ、どうすれば電子の世界で事実を記録できるのでしょう。別の言い方をすると、”事実の記帳”に求められる要件とは何でしょう?これは一言で言うと”透明性”という言葉に集約されます。
そのデータを、いつどこで誰が生み出したのか、現在に至るまでどう変遷してきたのか、これらの内容をデータの管理者ではなく、そのデータを使おうとしている人が自ら検証できる(検証可能性)、これがデータを事実として扱うための要件となります。これを満たしていればデータを事実として記帳できます。それを支える技術がブロックチェーンです。
エンタープライズ・ブロックチェーンが出来ること
ブロックチェーンはそういう意味で、これまでのメッセージ交換では実現出来なかった新たな業務改善を支える技術と言えます。ただそこまで大騒ぎするほどの話ではありません、残念ながら。革命的でもありません。企業間で使われることを想定したエンタープライズ・ブロックチェーンが出来ることは、「企業間で事実としてのデータを共有できる」、それだけです。
例えば下記のような企業間で情報をやり取りする場面において、Beforeブロックチェーンであれば、A社が記録した事実(赤い四角)は、B社では少し違って認識されており、C社に至っては全く違った内容として一人歩きしています。
企業間での事実の共有は困難を伴います。なぜなら、自社内での情報共有とは異なり、①取引の関係者は複数、②各社が似たような目的で別々のシステムを使用、③各社が別々のタイミングでデータを保存、しているからです。その結果、一つの事実に対し、異なるバージョンが生まれてしまいます。そのため、どうにか正しい事実を確認するため、多くの場合、バックオフィス部門が会社間で頑張って調整しています。そして頑張るから間違えます。
ではAfterブロックチェーンの世界ではどうなるのでしょう。企業間では完全に同期され勝手な変更を許さないデータが”事実”として共有されます。A社が記録した事実(赤い四角)は、そのままB社においても、C社においても赤い四角のままです。
各社は同じ目的で似たようなシステムに二重投資する必要なく、一つのアプリケーションをみんなで(業界横断で)使います。そのため、割り勘効果が働き、アプリの開発費は1/10, 1/100と低減されるでしょう。”事実”はリアルタイムで共有されるため、無駄な確認作業はなくなり、手作業がなくなる分のコスト削減効果は、顧客への割引という形で還元されるでしょう。何よりもマンパワーでやるしかなかった業務が自動化されることで、これまで以上の取引量を処理でき、売上向上に繋がります。そして、頑張らないから間違えません。
どのようにロケットスタートする?
既に世界ではこのメリットを享受し始めているコンソーシアム(企業群)が出始めています。日本もこれに乗り遅れないようにロケットスタートして追い付きましょう。さて、どう動かない組織の重い腰を上げましょう。テーマとしては一言、
コロナ禍でも変わらなかった業務改善に挑む
Afterコロナの施策として稟議書を書き上げ、まずは”様子を見る”のではなく、まずはPOCを実施しましょう。テレワーク導入と同じです。もう技術的には用意されているので、やってみたら意外にできます。
もしくは、専門家にご相談下さい。
社内でいくら情報収集して、議論してても、世の中で起こっていることは違っていたりします。ブロックチェーンの取り組みを始める際は、必ず専門家に相談することをお勧めします(相談無料)。下記にブロックチェーン・プロジェクトのTipsをご紹介します。もし興味がある方は是非ご連絡下さい。
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