- Euroclearなどの国際証券決済機構(ICSD)のご紹介
- ICSDによるデジタル証券発行サービスの意義と今後の見通し
2024年「ブロックチェーンビジネス・アドベントカレンダー企画」17日目の記事です。 関連企業の皆様にも記事を書いていただく予定ですので、是非お立ち寄りください!
はじめに
約1年前の2023年10月頃、欧州の国際証券決済機構である「Euroclear」が「Corda」を基盤としたデジタル証券(セキュリティ・トークン)発行サービス(D-SI)を開始した。同サービスでは分散型台帳技術(DLT)上でデジタル化された国際証券「DNN(Digitally Native Notes)」の発行・流通・決済を行う。本サービスは世界銀行(※)が初の発行体となり、世界銀行の国際復興開発銀行(IBRD)が約1億ユーロ(158.8億円)ものデジタル債券(債券型ST)を発行し、ルクセンブルク証券取引所に上場した。この資金は、世界銀行の持続可能な開発活動の資金調達に使用される予定だ。このサービスは、デジタル金融市場インフラ(D-FMI)戦略の重要な一歩となっている。
本発表から捉えられることは、主要な中央証券預託機関(CSD)が来るべきトークン化の波に向けて動きが活性化してきたということだ。今回のデジタル証券発行サービスの動きは、アメリカの世界最大級の証券決済・保管機関のDTCCのDLTを活用し決済期間短縮を目指すプロジェクトION、未公開株取引を行うプロジェクトWhitneyやドイツ証券取引所のデジタル証券のポストトレードプラットフォーム「D7」でのデジタル証券の発行など、他のCSDの動きに続くものでもある。
本ブログではEuroclearなどのICSDとCSDの違い、デジタル債券発行の意義、そして今後の見通しについて解説していく。
※世界銀行(World Bank)は、国際開発金融機関のひとつで、途上国の政府や民間企業に対して融資や技術協力などを行っている。国際開発金融機関の中では最も規模が大きく、世界中の途上国にとって欠かせない資金源、技術援助機関だ。
Euroclearとは
まず、Euroclearについて触れていく。
Euroclearは国際証券決済機構(ICSD)の1つであり、110 カ国以上の主体が発行した証券について、決済および保管サービスを提供している。Euroclearには、80 カ国以上から約 2000 社が参加しており、その大部分は銀行、証券会社、および証券発行業務・カストディ業務・マーケットメイク業務・証券取引業務を行うその他の主体である。参加者はそれぞれEuroclear銀行に資金口座と証券口座を保有し、Euroclearは与信、外国為替、証券貸借、担保管理など決済に関連したサービスを提供している。
各国の中央証券預託機関(CSD, 日本では証券保管振替機構)と違い、Euroclearはグローバルに対応しているのが強みだ。証券保管振替機構などはあくまで国内限定であり、サービスの提供範囲も大きく異なる。
項目 | Euroclear (ICSD) | 証券保管振替機構 (CSD) |
対応範囲 | グローバル対応:国際的な証券決済や資産保管、クロスボーダー取引を扱う | 国内限定:日本国内で発行された株式、債券、ETFなどの証券の保管や決済を担う |
対象資産 | ユーロ債、国際債券(グローバル債券)、一部の株式やファンド | 日本国内の株式、債券、ETF、投資信託 |
利用ユーザー | 多国籍企業、グローバルな金融機関、国際機関 | 日本国内の証券会社、銀行、機関投資家 |
規制対象 | 複数の国の証券市場や規制に対応可能 | 日本の規制や法律(金融商品取引法など)に準拠 |
技術対応 | デジタル証券、分散型台帳技術の活用 | 比較的保守的だが、証券電子化の基盤整備は対応済み |
通貨の対応 | 複数通貨(USD, EUR, GBPなど)に対応可能 | 日本円のみ対応 |
主な業務の特徴 | 国際証券決済、与信、外国為替、証券貸借、担保管理 | 保管・振替システム、国内市場での株主名簿管理 |
コスト構造 | 高度な国際取引や付加価値サービスに応じた価格設定 | 比較的低コスト(国内専用インフラとして運営) |
デジタル証券発行の意義
Euroclearによるデジタル証券発行の意義は、単なる技術革新にとどまらず、金融市場全体に広い影響を与えるものになるだろう。元々日本や世界においても不動産や社債などを企業がブロックチェーン上で発行する取り組みは既に行われているが、今回は欧州の「Clearstream」とともに欧州の2大証券決済機関に数えられるEuroclearがこのプロジェクトを主導したことが大きい。特に以下のような具体的な影響が期待されると筆者は考える。
グローバルな標準化への貢献
Euroclearは国際的な証券決済と保管の主要プレーヤーであり、その基盤には世界中の金融機関が信頼を寄せている。そのため、同社がデジタル証券発行サービス(D-SI)の発行を開始したことは、グローバルな金融市場での標準化に大きく貢献する。このプロジェクトを通じて、デジタル資産の共通プロトコルやインフラの整備が進み、各国間での相互運用性が高まる可能性がある。これにより、複雑なクロスボーダー取引の効率化が期待されるだろう。
国際金融機関にとっての資金調達の効率化
世界銀行のような国際金融機関は、インフラ整備や貧困削減、持続可能な開発目標(SDGs)の達成を目的とするプロジェクトを進めている。そのため、巨額の資金を信頼性が高く公開される方法で効率的に調達する必要がある。最近では2024年8月にアジアインフラ投資銀行(AIIB)がデジタル証券発行サービス(D-SI)上で初のDNN(国際証券)を発行している。これは米ドル建で発行しており、3億ドルの調達に成功している。AIIBの持続可能な開発債券プログラムを支援するために使用される見込みだ。
今後の見通し
この成功事例は、他の金融機関や企業にも大きな影響を与えると予測される。まず、Euroclearの取り組みを皮切りに、他の中央証券保管機関(CSD)もデジタル証券市場への参入を検討し、広範な採用が進む一助となるだろう。日本の取引所や証券保管振替機構は各国と比べて出遅れていることは否めない。最近はあまり話題に上がらないが、東京や大阪、福岡などで盛り上がっている国際金融都市構想などを契機に日本の金融市場インフラを変化させ、DLTを利用することで効率的な市場インフラを構築してくれれば幸いである。
終わりに
Euroclearによるデジタル証券発行サービスの導入は、国際金融市場における大きな転換点を示しており、今後の金融システムに広く影響を与えることが予想される。グローバルな標準化の進展、そして国際金融機関の資金調達効率化の一助となるこのプロジェクトは、デジタル証券の普及に向けた大きな一歩となった。今後、他の中央証券保管機関(CSD)や金融機関の参入が進み、デジタル資産市場はますます活性化するとともに、国際的な取引の効率化やクロスボーダーの相互運用性向上が期待される。
一方で、日本の金融市場インフラにおいては、他国に比べてデジタル証券に関する動きが遅れている現状がある。しかし、国際金融都市構想などの取り組みを契機に、日本でもDLTを活用した効率的な市場インフラの構築が進むことが望まれる。今後の発展に向けて、金融機関や証券決済機関の柔軟で迅速な対応が求められるだろう。
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