ブロックチェーン技術が保険業界のバックオフィスを合理化し、新しい保険アプリケーションを開発する方法について学べます。
- 2018年エグゼクティブサマリー
- 保険業界の概略
- 保険における現在の取り組み
- Cordaで構築されたソリューション
- 1.海上保険プラットフォーム — Insurwave
- 2.産業界の協力 — Riskblock
- 3.保険データの共有 — Cognizant
- 4.Commercial P&C Marketplace
- 5.テクニカル保険会計および決済 — ChainThat
- 6.保険プラットフォーム、ネットワーク、 エコシステム — B3i
- 7.業界損失保証 — CordaInsure Global CorDapp Trial
- その他のブロックチェーンプラットフォームで構築されたソリューション
- TradeLens
- 保険における将来の市場機会
- Corda InsureTech Challenge:2019年始動
- 総括
2018年エグゼクティブサマリー
- ブロックチェーンは、保険会社にバックオフィスシステムを合理化する機会を提供します。
- 2018年、いくつかの大手保険会社からなるコンソーシアムがシステムをR3 Cordaに移行しました。
- このレポートは、Corda上で構築されている7つの保険関連アプリケーションに焦点を あてています。
- 2019年には、利用ベース保険や貿易信用保険などのニッチ分野に重点を置いて、より多様な保険アプリケーションが構築されるでしょう。
過去数年間、保険会社は新しい技術の活用をモデル化して業界の既存の事業を再考し始めています。ブロックチェーンはバックオフィスを合理化する可能性を秘めており、デジタル化をリードするテクノロジーとして最も重要なものの一つです。このレポートでは、既存のアプリケーションと新しいアプリケーションの双方を紹介します。
保険業界の概略
保険契約のサイクルにはいくつかの問題点があります。まず、情報資源がプロセスによって分断され、引受サイクルの長期化につながっています。
そして、契約の事務プロセスも非効率的で広範囲にわたり、アナログな処理も多く残っています。さらに、請求システムは高い調整コストをもたらす古いものであり、損失状況の把握が複雑なプロセスを伴うことにより決済遅延という問題が発生し、それが保険会社に高い経費率を生み出しています。また、厳しく流動的な規制が意思決定の遅延や査定事務の煩雑化などを引き起こしています。
保険会社は競争力を維持するために進化する必要性を認識しており、積極的にテレマティクス、機械学習、ロボティクス、人工知能のようなデジタル技術の調査をしていますが、それらのどれもが保険会社が直面している主な問題への根本的な対応となっていません。問題の核心は、業務を合理化しバックオフィスで経理や監査に費やされていた管理コストを抑制し、リソースの運用に自由度を確保してマイクロインシュアランスなどの有力市場における新商品開発の資金を捻出することです。
ブロックチェーンは、保険会社が直面する問題を解決するために、様々な関係者を結びつけて目的を達成するためのテクノロジーです。
具体的には、Cordaは保険エコシステム全体がプライバシーとセキュリティを保ちながら請求書などの作成、受渡しをすることを可能にします。
Cordaのユニークな技術は保険業界に適合するものです。たとえば、Cordaでのスマートコントラクトの実施は、保険会社が自社の方針に基づいた順番でトランザクションイベントを実行します。 ACORDメッセージ規格もサポートしており、プライバシーとセキュリティが強化されたCordaは保険業界が次世代ブロックチェーンプラットフォームとなる手助けとなるでしょう。
保険における現在の取り組み
保険業界はCordaが最も成長している業界の一つとなっています。多くの多様なステークホルダーがCorda基盤上にソリューションを構築し、将来の成長にむけて健全な指標を示しています。R3のパートナーは、大規模なシステムインテグレータやコンサルタント会社、スタートアップ企業、保険業界内の企業のコンソーシアムを含んでいます。このレポートでは7つのCordaで開発された保険業界のプロジェクトと1つのIBM Fabricで開発された保険業界のプロジェクトを紹介します。
Cordaで構築されたソリューション
1.海上保険プラットフォーム — Insurwave
「Insurwave」のプラットフォームは、昨年4月にEY、Guardtime、A.P 、Møller-Maersk、Microsoft、Willis Towers Watson、XL Catlin、MS Amlin、ACORDによってCorda基盤上に構築されました。
「Insurwave」は50万件以上の自動元帳取引をサポートする海上リスク管理ソリューションであり、初年度には1,000隻以上の商用船のリスク管理をする予定です。
このソリューションは、ブローカー、保険会社、再保険会社との連携により、顧客企業のリスク管理手法を変革することにより、コスト削減に資することを目的としています。
「Insurwave」は、安全で正確で不変の監査証跡と自動化されたサービスを使ってプロセスを実行し顧客、ブローカー、保険会社、および第三者を結び付けます。
このソリューションは、Cordaブロックチェーンを利用してデータと契約をリンクさせ、ビジネスを変えうる情報に基づいて判断することを可能にし、価格設定やビジネスプロセスを変革します。クライアントの資産、トランザクション、および支払い情報を結び付け、また、保険事故データを取得して検証することによって多企業間での資産データの作成と維持をすることを可能にします。
このプロジェクトは、コンプライアンスを順守しながら、収益向上とコスト削減を実現し、利用者は世界中を移動する資産の場所、状態、および安全性をリアルタイムで把握できます。そしてそれは正確、迅速、公正な引受けと価格設定につながっていくでしょう。
さらに、利用企業は作業の合理化による大幅な運用改善、リスク管理能力向上、早期の方針修正、および請求処理プロセスの合理化を実感するでしょう。
この「Insurwave」はMaerskのような自社の貨物顧客に対してリスク管理や保険商品を提供する海運多国籍企業に対して、新たな収益機会を提供することになります。
2.産業界の協力 — Riskblock
「Riskblock」は、アメリカ国内外の保険会社、証券会社、および再保険会社からなる大規模なコンソーシアムです。公開メンバーにGEICO、State Farm、Chubb、Liberty Mutual、Marsh and Nationwide、などが名を連ねるこのコンソーシアムはThe Institutesによって運営され、リスク管理企業および損害保険会社にガイダンスを提供しています。
「Riskblock」はこの保険証明書などの分野をカバーしさまざまな分野を超えてコラボレーションを促進するために保険業界に保険の証明、保険求償、保険事故報告の共有、およびパラメトリック型保険などの一連のアプリケーションを提供しています。
「Riskblock」は2019年に商用ラインでユースケースを発表し、また再保険、規制報告およびその他の分野でのユースケースの検討を行っていきます。さらに、「Riskblock」は多くののユースケースの基盤となるCanopyという統合層を開発しました。Canopyは多くの保険会社が将来、ブロックチェーンによる合理化を行い、多くのアプリケーションが基盤上で動作するようにブロックチェーンを強化します。また、すべての人々がアプリケーションを使用できるようにし、さらに許可された第三者が環境を利用して独自のアプリケーション開発することを可能とします。さらに任意の他の当事者とデータを共有することを可能もします。
「Riskblock」は複数のイニシアチブに取り組んでいます。現在はプルーフオブインシュアランス(POI) と呼ばれる、保険の存在をデジタルで検証する技術や来年初めに公開されるファーストノティスオブロス(FNOL)と呼ばれるデータ共有技術を試験運用中です。また、支払いのネッティングを容易にする代替ツールも試験しています。
3.保険データの共有 — Cognizant
Insurance Data Sharingは、被保険者の意見を提供することを目的として15社のインドの保険会社のグループと共に「Cognizant」によって開発されたプロジェクトです。
このプロジェクトには2つの目標があります。一つ目は、マネーロンダリングと詐欺が新規事業や請求に蔓延していることに対処することです。二つ目は、保険会社が旧来の方法で最新のデータを取得するためにデータアグリゲーターに高い対価を支払っていることに対処することです。
データ共有によるネットワークのスケーラビリティ向上と待ち時間の短縮を可能にするCordaを使用したプライベート型の分散元帳の実装により、新規事業に関わる潜在的な詐欺の兆候を早期に入手しようとしています。
このソリューションはリアルタイムの可用性、透明性、そして顧客の一貫性をもった契約データ、請求データを確保し、参加保険会社が詐欺に対応するコストを削減し、手続きや承認の重複を回避させます。また、包括的な算定とチャージバック、そして提供データ共有を促進するメカニズムを提供します。そして、このプロジェクトはCorDapp基盤上で実現されます。アプリケーションの次の段階であるフェーズIIでは、より洗練された算定およびチャージバックシステムで詐欺を検出する機能を開発することが予定されています。
4.Commercial P&C Marketplace
AonやWillis Towers Watson と同じようにCapGeminiはGenerali Global Corporate & Commercial Italia、AIGおよびUnipolSai Assicurazioniなどの保険会社のグループを含むイタリアの損害保険市場向けに交渉プラットフォームを構築しました。保険会社とブローカーはリスクデータの同期において安全で透過的な共有プラットフォームを作成するために集まりました。このプロジェクトのソリューションは多くのビジネスラインに関連している一方で、取り扱いが複雑とされる商業用不動産にも焦点を当てています。
このグループは、単一の当事者にすべてのデータへのアクセス権を与えるデータベースを集中管理し、ブロックチェーンベースの市場に基づいて様々な決定を下しています。プライベートエコシステムを作成するためにCordaを選択してから、共通のデータベースに基づいて作業をしています。
現在、このプラットフォームはブローカーがリスク情報を集めて、損害請求を審査する保険会社に対して提供し、ブローカーと保険会社双方がすべてこのプラットフォームの上で折衝してから対応方針を策定することを可能にしています。最終的な計画は他の製品にも拡大しながら、イタリア市場の他のプレーヤーへの適用することを目的にしています。
5.テクニカル保険会計および決済 — ChainThat
「Technical Insurance Accounting and Settlement」は、ブロックチェーンベースの保険アプリケーションを作成してる「ChainThat」によって構築されたソリューションです。
このソリューションは保険会社および再保険会社への保険会計および財務会計の提供を目的としており、それはCorda上に構築されています。
保険会計および決済ソリューションは、Corda上に構築されたモジュラー保険ブロックチェーンフレームワーク(CT-IBF)統合ソリューションである「ChainThat」の一部です。重要なことはこのモジュール性は、他のシステムからの他のデータソースとのAPIを介した統合を提供します。特に、ACORDメッセージ規格のEBOTメッセージデータの受信と応答を行います。また、契約や請求データや支払合意プロセスから直接、会計に反映させることもできます。
当事者間の決済は、通常決済およびネット決済(二国間または多国間決済)を利用できます。契約から保険会計、財務会計および銀行口座の支払いにいたるまで、完全な監査証跡が提供されます。さらに、成長する商業用不動産の分野や特殊な再保険市場分野における個別、包括的な会計処理までサポートしています。
6.保険プラットフォーム、ネットワーク、 エコシステム — B3i
B3iは、2016年12月に大手保険コンソーシアムとして設立されました。参加メンバーは世界全体で保険市場の約60%を占めています。2017年にHyperledger Fabricでプロトタイプを完成させた後、2018年の初めにCordaに移り保険プラットフォームを構築しています。B3iは強くCordaの技術を信頼しており、保険プラットフォームをCordaのプロダクトとプラットフォームに統合しました。これによりB3iとそのクライアントはCordaのユニークな設計から利益を得ることが可能になります。
B3iは保険業界において世界規模でのデジタル化、DLT利用促進、余剰と無駄の排除、分断のないオペレーションとプロセスへの変革を進める上で、重要な役割を果たすことを目指しています。プラットフォームは新しい相互運用可能なアプリケーションのためのサービスやコンポーネントを提供します。 ネットワークは厳しいオンボーディングとビジネスを安全に発展させるためのKYCプロセスを確実に行うB3iによって管理、運営され、これを利用することにより、メンバー、およびサードパーティベンダーはアプリケーションを構築、配布し収益化することにより、豊かなエコシステムを構築することができます。
今年の終わりに、B3iはそのプラットフォームと初期段階の再保険アプリケーションをリリースする予定です。このアプリケーションはシンジケートローンに似ています。多くのバックオフィスで始まるブロックチェーンプロジェクトとは対照的に、B3iは最初のアプリケーションをフロントオフィスの取引で開始し、実際のユースケースに基づいたものを扱います。再保険事業者はセカンダリーマーケットでのリスクの一部を再保証することによってリスクを管理し、ブローカーは大手、その他の再保険事業者がスマートコントラクトを適切に構築し実行することを助けます。
プラットフォームとアプリケーションはどちらもCorda Enterprise上で動作しています。 共有プロセスで複数当事者間の取引、データ転送、交渉、書き込みおよび署名を処理します。 これは電子メールや暗号化通信のようなオフチェーンの問題を取り除き、確実な契約を提供します。
アプリケーションは2018年末に稼働する予定で、現在15の大手のブローカー、保険および再保険会社によるテストが行われています。そしさらにより幅広い企業のグループが2019年第1四半期に参加する準備をしており、Corda上、それ以外の環境上に関わらず、2つのネットワーク間で契約の締結が行えるよう取り組みを行っています。
7.業界損失保証 — CordaInsure Global CorDapp Trial
「CordaInsure」は、Cordaが保険ソリューションをどのようにサポートできるかを示すためにR3によって構築されたデモです。「CordaInsure」は、Project Industry Loss Warranty(ILW)の目的を変更したバージョンです。ILWは個々の被保険者の損失ではなく業界の損失に基づいて支払う額が標準化された再保険契約です。「CordaInsure」のようなCorDappのデモは一種のガイダンスです。例えば、保険会社にCordaの基本をカバーする自己学習教材、ユースケースに関する情報、およびプロトタイプの設計方法を提供します。またCorda Testnetおよびビジネスネットワークに関する情報にアクセス権を与え、参加者は、Corda Testnetにノードをデプロイする方法も示されます。最終的にこのトライアルは、保険契約に基づいて外部のトリガーによって請求の調整を行う機能を実証します。
「CordaInsure」の試験は6週間続き、保険会社に保険のビジネスソリューションがどのようにCorda上に構築されるかを理解するためのガイダンスを提供します。トライアル内で、各参加企業はCordaテストネット上でのデータ交換においてそれぞれが担うべき役割を検証することになります。
その他のブロックチェーンプラットフォームで構築されたソリューション
TradeLens
「TradeLens」は貨物保険の貿易文書のデジタル化と交換を可能にします。MaerskとIBMがHyperledger Fabric上に構築したこのプロジェクトは、IoTや気温、重量を測定するセンサーデータ技術などの他のテクノロジーを融合しています。Maerskはこのソリューションによってトランジットタイムを40%削減できると確信しています。
また「TradeLens」はプロセスの効率性を向上させることができると同時に、安全で不変の監査証跡を提供します。貨物保険の市場(150億ドル)は船体保険の市場(70億ドル)より大きく、また細分化されています。そのため、貨物市場全体を捉えるためには、かなり多数のプレイヤーの参画が必要となります。 「TradeLens」プロジェクトは港湾事業者、荷送人、税関、貨物業者、運送業者および物流会社の92組織を含む一方で、Maerskの子会社以外の企業の取り込みに苦戦しています。企業は競合他社によって運営されているネットワーク内でのコラボレーションには消極的だからです。
保険における将来の市場機会
R3は、成長を促進するために引き続き保険会社のデジタル化の加速に資するアプリケーションの提供を通してパートナー企業、コンソーシアム、およびエコシステムをサポートしていきます。さらに、R3は大規模なアドバイザリー企業やシステムインテグレーション企業にCorDappsの構築と実装をスピードアップするためのデプロイメントとアプリケーションフレームワークを提供します。また、いくつかのクラウドプロバイダーとPaaSを実現するための協業を行っていきます。
個人向け自動車保険などのすでに行われている取組の他にトレードファイナンスの要素が含まれる貿易信用保険など、複数の業界にまたがるニッチ分野での関心が高まっています。R3は、Cordappのトライアルと業界ワーキンググループのイニシアチブ、そして調査報告を通してこれらの分野をさらに深く掘り下げていく計画です。
Corda InsureTech Challenge:2019年始動
保険エコシステムにとって重要なイベントの一つは、2019年に始動するCorda InsureTech Challengeでしょう。このコンペティションは保険会社のイノベーション部門や戦略的投資部門だけでなく、すべてのブロックチェーン関連のスタートアップ企業に開放されます。ファイナリストは「CordaCon 2019」でソリューションのデモを行うことになります。
総括
2018年はブロックチェーンベースの保険アプリケーションの開発にとってエキサイティングな年となりました。具体的には、複数の保険会社がCorda EnterpriseとCorDappsに参画しました。ユースケースはさまざまですが、最も多いものは損害保険(P&C)市場に関連するものです。2019年、保険市場でのブロックチェーン技術の応用は現在試験されているものが商用化されるにつれ、より成熟されていくでしょう。
<ご質問・ご要望の例>
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