貿易領域のCorda事例の担当者へのインタビューからR3やCordaの意義や今後の製品やプロジェクトの方針を理解する。
- こんにちはアリサ、今日は私達のインタビューに時間を割いていただきありがとうございます。 はじめに、あなた自身について少し教えてください?
- DLTとは何かを定義してもらえますか?
- このテクノロジーの可能性についていつ頃認識し、この分野で働くことにしたのですか?
- R3の役割を教えてください。
- Cordaは、すぐに金融セクターにおける主要なブロックチェーンとなりました。Cordaを魅力的なものにしている特徴は何でしょうか?
- 他のブロックチェーンプロトコルと比較した場合他にCordaの大きな違いは何ですか?
- インターオペラビィティへの挑戦とそれに対するCordaのアプローチについてさらに詳しくお話しいただけますか?
- ブロックチェーン技術を活用した主要なトレードファイナンスソリューションであるMarcoPoloはCordaをベースに構築されています。数年前にR3社とTrade IX社によって発表され、今日では25以上の金融機関の参加を数えています。 R3の関与、およびトレードファイナンスネットワークがCordaのテクノロジーをどのように活用しているかもう少し詳しく教えてください。
- 市場、特に貿易金融セクターが今後数年間で進化し、ブロックチェーン技術を採用することについてどのように見ていますか?
- このような状況でR3はどのように差別化を図りますか?
こんにちはアリサ、今日は私達のインタビューに時間を割いていただきありがとうございます。 はじめに、あなた自身について少し教えてください?
私は、ニューヨーク郊外にオフィスを構えるR3の貿易サプライチェーン部門の責任者です。 私はアジア開発銀行(ADB)の経済部門に入り、そこでアジア全体の貿易のデジタル化、イノベーション、貿易金融に取り組んでいました。 その中で、国際商取引を円滑に進めるために、税関職員、さまざまな政府機関や民間部門と協力しながら、アジア中を飛び回りました。
私は貿易経済学者でもあり、MITおよびジョンズホプキンス大学で学位を取得しています。 私はもともと米国政府などの公共部門そして国連において主に自由貿易協定と貿易交渉に携わりました。また労働基準と持続可能性プロジェクトについても関わってきました。
DLTとは何かを定義してもらえますか?
DLTは分散台帳技術(Distributed Ledger Technology)の略です。 一般的な定義ではブロックチェーンとなります。 これは、複数の個人、組織によって共有されるデータベースでありデータを交換する手段です。中央機関を持つ代わりに、すべての取引はネットワーク上の当事者間で行われます。 トランザクションまたはデータへの更新はリアルタイムで認識されるため、これによって運用上の非効率性と仲介者の作業負荷が大幅に削減されます。
たとえば、貿易においては、仲介者の作業負荷とデータ交換の両方が取引プロセスにおける摩擦の原因となっています。関係者同士は別々の接点で、データの交換、追加、編集を行っているため、リアルタイムで最新の整合性が取れた状態を保つことは非常に困難です。 もしDLTまたはブロックチェーンテクノロジーを使用すれば、すべての参加者が同じデータを同時に見ることができます。
このテクノロジーの可能性についていつ頃認識し、この分野で働くことにしたのですか?
貿易経済学者として働いていた私は、国際貿易が非常に遅く、コストがかかり、不透明であることをすぐに知りました。 エコノミストは効率を向上させるようトレーニングされているので、私は全力を尽くしてこれらの問題を解決する方法を見つけようとしました。
ここ数年の間に、ブロックチェーン以外のデジタル化は、それが解決策であるのと同じくらい多くの弊害があることが明らかになったと思います。 特定のデジタルソリューションを使用していた人達の貿易のスピードを向上させることができましたが、それはその特定のプラットフォームにいなかったどんな人達にとって効果がありませんでした。
アジア開発銀行がブロックチェーンについて検討し始めた時、私はブロックチェーンに出会いました。 そして、すべての参加者が一つのソリューションを使用することを必要とせずに、取引で抱えている問題を解決する方法を見たのは初めてのことでした。 その時、私はブロックチェーンに興味を持ち、テクノロジーの分野に変革が起きていることに気づいたのです。 そして私はR3に移籍することにしました。
R3の役割を教えてください。
R3は、Cordaブロックチェーンを構築し保守する会社です。 当初、私たちは銀行コンソーシアムとして結成され、既存のブロックチェーンで銀行のためのアプリケーションを構築しました。 しかし、比較的早い段階で、銀行はセキュリティと規制上の理由から、内部システムにパブリックブロックチェーンを展開するのは難しいということに気付きました。 その結果、銀行に必要な要件をヒアリングし、規制の厳しい金融機関で実際に機能するような独自のブロックチェーン、つまりCordaを構築することに至りました。
Cordaは、規制機関に対応することを目的としてゼロから構築された唯一のブロックチェーンです。 つまり、強力なアイデンティティプロトコルやビジネスネットワークのインターオペラビリティなど、最初から金融機関に必要とされることがわかっていた機能を実装しています。
Cordaは、すぐに金融セクターにおける主要なブロックチェーンとなりました。Cordaを魅力的なものにしている特徴は何でしょうか?
コルダは比較的新しい技術です。私たちのオープンソースプラットフォームは2016年に発表され、そして2年後にはエンタープライズ版でも稼働しました。そして、Cordaは当初、金融セクターでの利用を想定し開発されましたが、機密性やアイデンティティといった特徴は、結果的に他の多くのセクターに適合したのです。
第一の重要な特徴である機密性ですが、パブリックブロックチェーンの場合、すべてのノードがすべてのデータを保有します。新たなのノードを追加したときはいつでも、そのノードはネットワーク全体のすべての情報を保有します。しかし、Cordaでは、各ノードはそのノードに関連するトランザクションのデータしか保有しません。
また、CordaはPoint-to-Pointのアーキテクチャーを採用しており、開発する際、情報をブロックしたり、ノードにデータアクセスを許可しない方法などの設計に特別な考慮を払う必要がないので、ネットワークを迅速に拡張することができます。
第二の重要な特徴はアイデンティティです。たとえば、Bitcoinでは、あなたのアカウントやアドレスによって、必ずしも個人としてあなたを追跡できるわけではありません。しかし、Cordaはプライベートブロックチェーンとして構築されているので、あるトランザクションについて、あなたはそのトランザクションを実行したノードを運用するエンティティのアイデンティティを特定することができます。法的にアイデンティティを特定する必要がある機関にとって、それは非常に重要なことです。
他のブロックチェーンプロトコルと比較した場合他にCordaの大きな違いは何ですか?
たとえば、ブロードキャストを使用するパブリックブロックチェーンの場合、基本的に参加者はすべてのデータを共有します。つまりトランザクションが発生した場合、すべての参加者がそれを見ることができます。パブリックブロックチェーン上でビジネスネットワークを作り、特定のグループ内のみで機密データを共有できるようにプライバシーソリューションを設計し、サブネットワークに分離することもできますが、これはそのグループがネットワークの他の部分に完全に接続できなくなり、異なる部分のブロックチェーンへ自由にアセットを転送できなくなることを意味します。
Cordaは、プライベート型のブロックチェーンですが、Cordaプラットフォーム上にいる場合は、Cordaプラットフォーム上の他の様々なアプリケーションやビジネスネットワークへ資産を転送できるように設計されています。
あなたが最初に自動車会社として供給業者と共にCordaネットワーク上のサプライチェーン管理ソリューションに加わったとしましょう。さらにトレードファイナンスも利用したい場合、例えばMarco Polo Networkにリンクして、既存のアプリケーション(サプライチェーン管理ソリューション)を介して追加のオープンアカウントソリューションを要求し、両方のネットワークを接続することができます。
インターオペラビィティへの挑戦とそれに対するCordaのアプローチについてさらに詳しくお話しいただけますか?
最近の私の会議のほとんどでインターオペラビィティが話題に上ります。そしてそれは、今日の顧客が複数のブロックチェーンにまたがって機能することができる複数のソリューションを望んでいるからです。顧客は特定のプロバイダに閉じ込められたくないと考えており、それは理解できることです。
インターオペラビィティにはさまざまなレベルがありますが今回は2つ説明します。
1番目のレベルは、同じブロックチェーン上のアプリケーション間のインターオペラビィティです。 Cordaはそれを十分に考慮して設計されており、Corda上のあらゆるアプリケーションが他のあらゆるアプリケーションと相互運用を可能にするように構築されています。それによってあなたは同時に複数のビジネスネットワークに参加することができます。これは、この機能を持たない、少なくともHyperledger Fabricのような、それらをつなぐための追加の開発を必要とするような、他のブロックチェーンと比較した際、非常にユニークな設計と言えます。
2番目のレベルは、異なるブロックチェーン間のインターオペラビィティに関するものです。それが可能であることを私たちは理解していますし、実際に実装も行いました。Voltronの初期のバージョンに遡りますが、Hyperledger FabricとCorda上のVoltronアプリケーションの間にブリッジを構築し、両方のブロックチェーン間でトークンを利用して電子船荷証券を転送しました。
ただ、異なるブロックチェーン技術を結びつけるインターオペラビィティについて付け加えると、それを可能にするミドルウェアを使用しながら、多くの開発作業が必要とされる割には、利益は比較的限られたものになるようです。
今日のCorda以外のほとんどのブロックチェーンは技術的に可能であるものの、安定しておらず、後方互換性もないため、十分にスケーラブルとはまで言えない状況です。一方、Cordaは後方互換性があり、ビジネスネットワークを最新のCordaバージョンにアップデートしていなくてもアプリケーションを機能させることが可能です。
ブロックチェーン技術を活用した主要なトレードファイナンスソリューションであるMarcoPoloはCordaをベースに構築されています。数年前にR3社とTrade IX社によって発表され、今日では25以上の金融機関の参加を数えています。 R3の関与、およびトレードファイナンスネットワークがCordaのテクノロジーをどのように活用しているかもう少し詳しく教えてください。
マルコポーロは今日、最もエキサイティングなプロジェクトの一つです。これはR3のCordaプラットフォームの技術パートナーであるTradeIXによって構築されたもので、加速度的に成長している銀行のコンソーシアムです。貿易と貿易金融で銀行と企業を結びつけ、売掛金ファイナンスや買掛金ファイナンスなどのソリューションを含むオープンアカウントに焦点を当てたモジュール式の分散型プラットフォームとも言えます。これは、銀行ごとに若干異なる方法でトレードファイナンス商品を顧客に提供する際、オープンアカウントソリューションをカスタマイズするために重要です。
非常に興味深いことですが、MarcoPoloが業界でこれほど多く取り入れられた理由は非常に複雑なものを単純化した点にあると思います。MarcoPoloはすでに企業と金融機関の間の多国間貿易取引のための売掛金ファイナンスのパイロットを実施しています。
TradeIXや参加銀行とのパートナーシップは素晴らしく、R3はパイロットを通して彼らのコメントや学びを取り入れ、プラットフォームを貿易のために素晴らしく機能するよう強化しました。
市場、特に貿易金融セクターが今後数年間で進化し、ブロックチェーン技術を採用することについてどのように見ていますか?
私が最もエキサイティングだと思うのは、ブロックチェーンが最終的に貿易金融をもっと合理的で費用効果の高いものに変える可能性があるということです。
運用上の最大の課題は、誤りのある文書化やKYC(Know Your Customer)、複数システムのインターオペラビリティの不足、透明性の低さ、手作業のリコンサイル作業などですが、これらすべてはブロックチェーンで解決することができます。
貿易は本質的に分散型システムです。今まで中央集権型のソリューションを適用することに時間を割いてきましたが、実際にはうまくいきませんでした。
貿易は、業界全体がテクノロジーに遅れをとっており、「これは私たちに技術よって完全に変革することができるものだ。」と感じた初めてのものでした。そして今、本当にワクワクしていることは、2019年に私たちは実際に展開に移行していこうとしていることです。
私たちはテクノロジーを構築し、それをERPシステムに統合し、バックオフィスシステムにプラグインし、規制当局と協力して監査方法や取引に対する洞察について彼らが理解するように努めています。また、電子文書や電子署名などが規制環境とその周囲の法律に適合することを確認するために、さまざまな規制当局と協力しています。
つまり、銀行の運営方法を変えるだけではなく、貿易のエコシステム全体の構築の仕方を変えようとています。それはとてもエキサイティングなことです。
私が急速に動いていると思うもう一つの市場は物流分野です。たとえば、海運業界はブロックチェーンを採用し、さまざまなコンソーシアムを形成し始めています。
また、競合他社で、これまで一度も協力したことがないような企業同士が、このテクノロジーの適用に協力し始め、ビジネスのやり方を変えるようになっています。これらの新しいビジネスモデルと、それを運営するための新しい方法を目にすることはブロックチェーンについて最もワクワクすることの一つです。
現在、ブロックチェーンが何をし、何をすることができるかについて、より広く理解されるようになりました。当初、私がパートナーと行っていた会話の多くは、ブロックチェーンとは何か、それができることは何か、そして既存のビジネスのやり方との違いは何かに焦点が当てられていました。しかし2019年になった今、誰もがこれらの質問に対する答えを知っています。 現在は「私達のビジネス上の問題を知っており、さらにそれをブロックチェーンでどのように解決できるかはわかっているが、ビジネスネットワークをどのように構築したらよいのか、規制当局と協力をする必要があるか、関連する法的要件は何か、この新しいビジネスネットワークをどのように管理するか」に焦点が当てれています。
このような状況でR3はどのように差別化を図りますか?
R3では、規制対象の金融機関のニーズを念頭に置いて、Cordaをゼロから構築しました。規制当局、コンサルティング企業や事業会社との関係を築くのと同時に、技術を築いてきました。R3の成り立ちのとおり、私達はエコシステム全体がどのように機能するかのノウハウがあります。私たちはテクノロジーを構築するだけでなく、エコシステム全体をカバーできるのです。
またもう一つの差別化要因は、R3自体がアプリケーションを構築しないという点です。R3はブロックチェーンを構築し、プラットフォーム上のアプリケーションの機能の要件定義や構築は当社のパートナーが行います。私たちのビジネスモデルは、テクノロジー、コンソーシアム構築のノウハウ、そしてコンタクトによるパートナーのサポートです。
R3はパートナーが規制の問題にどのように対処するか、銀行や保険会社と協力する方法は何か、そしてIoT(Internet of Things)やAI(人工知能)のような他の技術と統合する方法は何かなどを理解するための手助けをすることに焦点を当てています。
出典:MarcoPoloホームページ(https://www.marcopolo.finance/interview-alisa-dicaprio-r3/)
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