NFTの抱える根本的な課題と対応策としてトレーサビリティサービスで解決できること
はじめに
前回は、まず金融領域におけるブロックチェーン技術がトークンエコノミーを目指して辿った流れについてお伝えしました。そして、後を追うようにして同じトークンエコノミーを目指す実業領域のブロックチェーン、その流れの始まりとして注目を集めるNFTについても触れました。
今回は、NFTが抱える問題とトレーサビリティ・サービスSHIMENAWAについてお伝えします。
1.NFTの抱える問題
前回、NFTについて以下の通り説明しました。
NFT(Non Fungible Token)特定のモノに対応する唯一無二のIDを作成し、そのIDを含むデータ(トークン)をブロックチェーン上で動かすことで所有権の証明ややりとりができる技術、またそのデータ。
前回記事でもお伝えしたように、NFTは今注目を集めている技術です。しかし、現実世界に存在するモノを取引する手段として安心して利用するためには、未だ解決しなければならない問題が残っています。
問題① 所有権、商品との対応
まず、現実の商品に対してNFT(所有権)を発行したとしてもそのNFTと商品の所有権を結び付ける根拠が存在しません。土地のように取引方法の決まっている商品であればなおさらNFTとの結びつけは困難になります。
そして、たとえNFTが商品の所有権と結びついたとしても、パブリックブロックチェーン上では誰もが提供者になれることから、同一の商品に複数のNFTの発行を申請できてしまいます。「正しく権利を持った唯一の主体だけが現実の商品と結びついた唯一のNFTを発行し販売できる」という環境は実現できていません。
NFTと商品の所有権を結びつける根拠がなく、一つの商品に対して複数のNFTが発行可能
問題② 商品の変化の反映
NFTには、「対象とする商品に起きた変化を反映させる」ことはできません。お米で例えると、NFTとして登録した一袋のお米が傷んで食べられなくなってしまったとしても、NFTに食べられるお米としての情報を維持したまま所有権の売買が行われてしまいます。すると、食べられるお米一袋を買ったつもりであるのに傷んだお米が手元に来てしまうといった被害が起こり得ます。またお米がおにぎりになったこともNFTに反映できないため、変化する可能性のあるお米のような商品はそもそもNFT化できないということになります。変化の反映ができないことには、詐欺の危険性が高まる、活用の幅が狭まるといったデメリットがあります。
商品の変化を反映させることができない
問題③本人確認(KYC)
現在のNFT市場では、本人確認ができていないユーザーに対してもNFTを販売することができます。つまり、NFTの売買を通じてマネーロンダリングや脱税等の犯罪を行うことができてしまいます。
購入者が詐欺被害に遭う可能性があり犯罪にも活用できてしまうという特徴は、規制に対応するために安全性を高めたサービスが登場する前の、金融領域におけるブロックチェーン技術群と似通っています。
2.トレーサビリティ・サービスSHIMENAWA
ここまで、NFTが現実のモノの取引を扱うにあたっての問題について述べてきました。さて、それではブロックチェーン上で安全にモノの取引を行うことは不可能なのでしょうか?
この問題にNFTとは別のアプローチをしたのが、トレーサビリティ・サービスSHIMENAWAです。
SHIMENAWAは、
・サプライチェーンを管理するための、参加に承認を必要とするブロックチェーンです。・サプライチェーンの参加者(生産者、加工業者、小売業者……)だけが取引や商品情報の登録に参加し、消費者はその情報を閲覧できます。
・「材料を生産し、販売した」、「材料を購入し、加工し、製品を出荷した」等の取引が記録されます。
・消費者は、手に取った商品の来歴情報、SDGsに貢献した情報などを確認することができます。
本サービスがなぜブロックチェーン上でモノを扱えるのか、NFTが直面した問題にいかに対応したのかを次で述べます。
3.SHIMENAWAにできること
対応①所有権、 商品との対応
問題①では現実の商品の所有権との紐づけができないこと、同一商品に複数のNFTが発行されることについて述べました。
SHIMENAWAはサプライチェーンの中での情報を記録するサービスであるため、所有権を保証するものでありません。ブロックチェーン上の情報が所有権を保証するのではなく、商品を手元に持っている主体が情報を登録します。
参加者の限定、改ざんの検知がブロックチェーン上の情報と現実の商品との対応を可能にします。SHIMENAWAはサプライチェーンに関わる主体だけを情報登録の参加者として承認するため、取引記録を複製・改ざんしようとするような悪意ある第三者が参加することはできません。
また、他の取引記録との矛盾の発見・検知が可能であるため、取引記録の数量や内容を後から書き換えて誤魔化すといった不正ができないようになっています。
対応② 商品の変化の反映
問題②では商品の変化の反映ができないため詐欺の危険があり、活用の幅が狭まることについて述べました。
SHIMENAWAにおいてはモノの変化に関わる主体(加工業者等)がブロックチェーン上に情報を登録するため、変化は必ず反映されます。
おにぎりを例に挙げれば、加工業者の「お米の購入」の取引が記録され、「お米→おにぎりの加工」が記録され、「おにぎりの売却」の取引が記録されるという流れによってお米→おにぎりの変化をブロックチェーン上に反映させることができます。
対応③ 本人確認(KYC)
問題③ではマネーロンダリングや脱税の手段として使われてしまう危険について述べました。
SHIMENAWAでは取引参加者は本人確認が取れており、消費者からは情報の閲覧のみ可能となっています。また取引参加者による情報の改ざんも不可能です。NFTのような売買用途はなく、トレース情報を確認できることに焦点を当てているため、脱税やマネーロンダリングに使うことはできません。
SHIMENAWAにおける情報の登録
SHIMENAWAは、現実のモノの取引にNFTとは違ったアプローチをすることで上記のように安全性を高めています。
また、SBIトレーサビリティ株式会社は今後、
・商品の現物とブロックチェーン上の情報との紐付けを担保する技術パートナーとの連携
・入力される情報のプロセスや真正性を担保するビジネスパートナー・技術パートナーとの連携
を行っていきたいと考えています。
4.おわりに
今回は、NFTの抱える問題について解説し、トレーサビリティ・サービスSHIMENAWAがどのように安全性を高め、現実のモノの取引に対応しているかをご紹介しました。
次回記事「第三回 SHIMENAWAの目指すところ」ではSBIトレーサビリティが取り組むトレーサビリティサービスのあり方について生永がご説明いたします。
最後までお読みいただきありがとうございました。
<ご質問・ご要望の例>
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※本エントリーの執筆にあたり、弊社生永の講演資料を参考にしています。