2022年に向けてデジタルトラスト・Defi・CBDCの3つの観点からブロックチェーン業界動向を予測
はじめに
デジタル上の信頼関係が築かれ、DeFiとCeFiが歩み寄り、CBDCが実装に向けて加速する年になるだろう
著者紹介
Richard Gendal BrownChief Technology Officer at R3(R3社最高技術責任者)
抄訳作成 — 池口知佳(SBI R3 Japan インターン)
前置き
2021年のブロックチェーン分野では、 パブリックブロックチェーンがすべてを動かしているように見えたと言ってよいでしょう。しかし、だからといって、高度な暗号技術をビジネスの世界に持ち込もうとするR3が休んでいたわけではありません。
実際、パンデミックという継続的な障害があるにもかかわらず、2021年は資本市場のデジタル化にとって大きな進展があった年でした。2022年も金融テクノロジーにおいて前例のない年となるでしょう。以下の3つのトレンドは、今後12ヶ月間、市場参加者、政府、規制当局、インフラプロバイダーの展望を変化させ続けることになりそうです。
1.信頼の追求がデジタル領域を支配する
日常生活の中で意識することはなかなかありませんが、人類の潜在能力は、現実の世界で互いに信頼関係を築くことができたからこそ、引き出されるに至りました。信頼は人類文明の礎です。
そして、我々の私生活や仕事上の生活の多くがデジタル領域に移行してきています。デジタル領域における信頼の欠如は、2022年に業界が1兆ドル規模のリソースをかけて取り組まなければならない問題だと言えます。
すべてを自分で確認しなければならないなら決して実現できなかったであろう様々なことが、信頼によって実現しています。例えば、航空安全技術者を信頼できないとしたら、航空業界の登場を想像できますか? また、見知らぬ土地で食事を探すとき、信頼できるブランドを頼りにしたことが何度あったでしょうか。もし、食事をする前に自分で原材料を確認しなければならないとしたら、どうでしょう? つまり、信頼できれば、確認する必要はないのです。
もし、見知らぬ人を信頼する仕組みがなかったら、商業活動はどうやって家族の枠を超えたものになったでしょうか? 結局のところ、信頼は交換を可能にする基本的な要素なのです。そして、交換は富を生み出すものです。ですから私は、信頼は文明の基礎だと述べているのです。つまり、人間が互いに信頼し合えるからこそ、多くの人がめくるめくチャンスと富と生活水準を享受できるのです。しかし、デジタルの世界では、信頼はほとんど存在しません。
ウェブが登場した当初は、「ブラウザが本当に自分が思っている通りの会社と通信しているかどうか」を知る術はありませんでした。そのため、電子商取引やインターネットバンキングはなかなか普及しませんでした。しかし、ブラウザ接続のセキュリティ保護を表す南京錠マークの出現は、文字通り、自分が思っている通りの人物とつながっているという信頼を生み出し、何兆ドルものビジネスチャンスを生み出しました。また、最近まで、取引している企業と互いに同じ記録を持っているかどうかを知る術はありませんでした。そのため、互いの記録を照合するために、途方もない額の資金を浪費していました。ブロックチェーンは、文字通り「互いが見ているものが同じだとわかる」という信頼を生み出すことで、この問題を解決しているのです。
しかし、まだまだ先は長い — — 2022年以降、テクノロジー業界が注目しなければならないのは、この点です。例えば、あなたが第三者に情報を送るとき、その相手があなたの情報をどう扱うか、技術的に知る術はありません。そのため、「データスクラビング」や監査に莫大な費用をかけなければなりません。そもそも機密データをまったく共有しないという手段を取る人の方が多いのではないでしょうか。自分の情報が他人の手に渡ったときにどのように処理されるのかが分からないために、新しい価値を創造したり、顧客により良いサービスを提供したりする機会がどれだけ失われているかを想像すると、気が遠くなるような思いです。
いつか私たちは、デジタル領域での信頼のレベルが非常に低かった時代の中で、どれだけのことを達成できたか、畏敬の念を持って振り返ることになるでしょう。しかし、信頼を築く技術の存在により状況は変わりつつあります。ブロックチェーン、機密コンピューティング、応用的な暗号技術の融合が起きており、企業はこれを適用して、デジタル領域で活動するあらゆる規模の企業内および企業間の信頼レベルを大幅に高めています。
デジタル領域全般に信頼を提供することは、人類の進歩の次の波を推進することになります——そして、それは今日にも始まるでしょう。
2.DeFiとCeFiの境界線は曖昧になりつつある
テクノロジーの世界では、分散型金融、すなわち「DeFi」への関心が高まっており、昨年はその関心がピークに達しました。この言葉は、熱狂と懐疑と好奇心を等しく呼び起こしました。しかし、私は、この技術が、(ブロックチェーン技術を正しく発展させ、投資詐欺や脱税手段として活用とする人たちのやり口を超えて本当に世の中の人のためになる技術にしていくことができたら)次世代のアプリケーション基盤となり得ることに、ほとんど疑いを抱いていません。
DeFiの核心は、仲介を排除するという中心的な原理に基づいており、これは多くの利益をもたらす可能性があります — — すなわち、金融の民主化です。
しかし、先走りは禁物です。DeFiが既存の中央集権的あるいは伝統的な金融システム、すなわち「CeFi」に取って代わる準備ができているという考えは(規制の影響下にある金融市場や金融機関に対して政府が好意的であることもふまえ)、乱暴に誇張されたものであると言えます。
しかし、同時に、既存の金融会社や市場インフラが、DTCCのIonやスイス証券取引所のSDXなど、分散型金融の世界から得た見識や発見を取り入れているのを我々はすでに目にしています。したがって、2022年にはこの二つが一体となり、互いに強化されると想像できます。DeFiは既存の金融サービス、Cefiのエコシステムと共存しながら、成熟し、進化していくでしょう。
※
金融市場インフラのデジタルシフト(SDXやIonなど)について、日本側(SBI R3 Japan)のトップからの寄稿が参考になります!
是非お読みください→金融市場インフラのデジタルシフト | SBI金融経済研究所 (sbiferi.co.jp)
3.CBDCは実世界への展開にさらに近づく
2022年は、政府がCBDCに対しどのような姿勢を取るかがはっきりする年になると思われます。現金に相当する真のデジタル通貨を発行する大胆な中央銀行が現れるかどうかがわかるでしょう。CBDCは現在世界中の国によって、ホールセールとリテールの両レベルで、そして様々な程度で検討されています。例えば、スウェーデンではスウェーデン国立銀行が「e-krona」の開発にしばらく取り組んできました。
CBDCの利用方法の中で、最近まであまり注目されていなかったのが、国境を越えた決済への利用です。12月、プロジェクト・ジュラは、フランスとスイスの間の証券と現金の「現実世界における」移動を、ホールセールCBDCで決済することに成功しました。
2022年はCBDCの本当の成熟の年になるでしょう。CBDCは今や司法の理解も得ています。私たち市民は、現実世界でできるのと同じ自由さでデジタル決済をすることを許されるのか否か。2022年は政策立案者がその答えを出し、私たちが何を構築するべきなのかが分かる年となるでしょう。
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