Cordaは来年で開発開始から10年を迎えます。単なるブロックチェーンではなく、実ビジネスに活用可能な分散型台帳技術であるCordaの軌跡を振り返ります。文末にPDF資料もございますので、ご参考ください。
Cordaの軌跡
今回の記事では、ブロックチェーン技術に興味のあるエンジニア向けに、企業向けブロックチェーン技術の代表格であるCordaについて、その誕生から現在に至るまでの歴史を振り返ってみたいと思います。Cordaの歴史を追うことで、この技術がいかに革新的で、業界にどのような影響を与えてきたのかが分かるはずです。
Cordaの誕生:立ち上げ初期
Cordaの物語は、2015年9月に始まります。ウォール街の9つの金融機関が、分散型台帳技術(DLT)を金融取引に適用できないかと検討を開始しました。この動きが、後にR3社の設立につながります。2016年11月には、Cordaのオープンソース版が初めてリリースされましたが、これは業界に大きな衝撃を与えました。なぜなら、Cordaは他のブロックチェーン技術と異なり、プライバシーやパフォーマンスと言った、実ビジネスで求められる要件を満たす設計だったからです。
コンセプトの確立:2015年〜2019年
Cordaの初期開発は、非常にエキサイティングな時期でした。開発者たちは、金融取引に適したブロックチェーンとは何かということを模索し続けました。最初のマイルストーンでは、Cash、CP(コマーシャルペーパー)、IRS(金利スワップ)などの基本的な金融商品の概念が実装されました。その後、ed25519署名アルゴリズムの導入や、非検証型の公証人(Notary)の実装など、着々と機能が追加されていきました。2016年のホワイトペーパーでは、Cordaの基本概念が明確に示されました。プライバシー、スケーラビリティ、既存システムとの互換性など、実ビジネスで実際に求められる要件が盛り込まれていました。Corda 1.0が2017年10月にリリースされ、わずか1ヶ月後にはCorda 2.0がリリースされました。この素早いバージョンアップは、開発チームの意気込みを表しているようにも見えます。
商用化と運用への注力:2019年〜2023年
2019年に入ると、Cordaは商用化と運用に力を入れ始めます。Corda 4.0のリリースは、この方向性を明確に示すものでした。Corda 4.0では、開発者向け機能の強化だけでなく、運用エンジニア向けの機能も充実しました。例えば、Docker Imageの提供やエラーコードの整備など、実運用を見据えた改善が行われています。また、この時期にはCorda Enterprise Network Manager(CENM)とthe Corda Network(tCN)も登場します。CENMはCordaネットワークの構築・管理を行うためのアプリケーションで、tCNは世界共通で使える単一ネットワークの管理団体です。これらの登場により、Cordaの商用利用がより現実的になりました。
滑らかな分散化:2023年〜現在
2021年から、Cordaは新たな進化に向けCorda 5の開発が始まりました。Corda 5の最大の特徴は、「滑らかな分散化」というコンセプトです。これは何を意味するのでしょうか?
従来のCorda 4では、各参加者(ノード)ごとにインフラが必要でした。これは、規模の小さな事業者にとっては負担が大きいという問題がありました。Corda 5では、ノードを仮想化し、インフラと別の概念にしました。これにより、小規模事業者でも大規模事業者のインフラに依存する形で参加できるようになりました。つまり、1社から始めて徐々に参加者を増やし、最終的には完全な分散化を実現できるという柔軟性を実現させたのです。Corda 5.0は2023年7月にリリースされ、マイクロサービス化やノードの仮想化を実装しました。その後も改良が重ねられ、2024年4月にはLTS(Long Term Support)版であるCorda 5.2がリリースされています。
Corda外との接続:Harmonia プロジェクト
分散台帳型基盤として構築されているCordaは、自然な流れとして他の基盤との接続も考えています。その中で、Harmonia プロジェクトという新たな取り組みが進行中です。
Harmoniaの目指す将来像は、資本市場の効率化と単一のグローバルなデジタル流動性プールの構築です。このプロジェクトが掲げる5つの原則を紹介します。
- ファイナリティの尊重
- 非決定性の回避
- 一方的なワークフロー停止&前進権限の排除
- 相互信頼を活用する事による外部機関の必要性の最小化
- 外部ネットワークのモデリング最小化
この原則は(想定される)サービス提供者である金融機関とのディスカッションを通して提示されているものであり、インターオペラビリティがどう有るべきかということについてのビジネスサイドからの提言であると私は理解しています。この原則(How)を如何に忠実に実現(What)するのかについてオープンに議論していくことがHarmoniaプロジェクトの目的です。このプロジェクトは現在進行系で進んでおり、こちらで議論が続けられています。より広い範囲の技術開発という意味でご参考になることも多いかと思っております。
まとめ:Cordaが描く未来
Cordaの歴史を振り返ってみると、業界のニーズに応えるべく、着実に進化を遂げてきたことが分かります。
- コンセプト確立期(White Paper to Corda 3):ビジネス取引に特化した基本概念を確立
- 商用化・運用期(Corda 4):実運用を見据えた機能の充実
- 適用範囲の拡大(Corda 5):より柔軟な参加形態の実現
そして今、Harmoniaプロジェクトを通じて、さらなる革新を目指しています。
失敗しないFinality(確定性)の確保、滑らかな価値の移動による効率的な流動性管理、データ主権の尊重。これらの課題に取り組むCordaの姿は、まさに分散台帳型技術の最前線そのものと言えるでしょう。
Cordaの進化は、単なる技術の進歩ではありません。それは、社会インフラである金融ネットワークをより高度化することを目指した壮大な挑戦なのです。エンジニアの皆さん、この挑戦的な旅路に、あなたも参加してみませんか?
何でも結構です。 Cordaの世界には、まだまだ多くの可能性が眠っています。その可能性を一緒に探求し、分散型台帳の未来を共に創造していきましょう。
PDF資料の付録
こちらのテーマの詳細を記載したPDFを添付しております。興味の有る方はご覧ください。
<ご質問・ご要望の例>
- Corda Portalの記事について質問したい
- ブロックチェーンを活用した新規事業を相談したい
- 企業でのブロックチェーン活用方法を教えて欲しい 等々
SBI R3 Japan エンジニアリング部長
書籍出してます:https://amzn.asia/d/c0V31Vd
趣味:サッカー、ガンプラ、ドライブ、キャンプ