ソラミツ様のブロックチェーンへの向き合い方や、取り組まれているCBDCの実例や要点整理、今後の展開計画など、CBDCの最前線の取り組みが学べます。
2024年「ブロックチェーンビジネス・アドベントカレンダー企画」15日目の記事です。 関連企業の皆様にも記事を書いていただく予定ですので、是非お立ち寄りください!
はじめに
アドベントカレンダー企画として、ソラミツ株式会社 代表取締役社長 宮沢和正様 にご寄稿いただきました。ソラミツ様のブロックチェーンへの向き合い方や、取り組まれているCBDCの実例など、非常に参考になる内容となっておりますので、是非ご一読ください!(R3Jより)
当社の会社概要と実績
ソラミツ株式会社は、2016年2月
に創業したブロックチェーン技術を活用した金融及び非金融領域におけるソフトウェア開発及びソリューションを提供する会社です。現在はスイスなど数カ国に関連企業を設立し、グループ企業全体では約150人の従業員を抱えています。当社のミッションは「ブロックチェーン技術で産業にイノベーションを起こし世界中の社会課題を解決」することです。
当社が、もともと開発したパーミッションド・ブロックチェーン「ハイパーレジャーいろは」はリナックス・ファウンデーションによりオープンソース化され様々な国での活用が進んでいます。当社は「ハイパーレジャーいろは」を活用してカンボジア国立銀行とともに「バコン」という中央銀行が運営する決済システムを共同開発し、2020年10月
に正式導入しています。2023年末
の段階では、カンボジアの国民の3分の2にあたる1,090万人が使用しています。2023年の年間決済金額は230億USドル(約3.4兆円)を記録し、これはカンボジアの2023年GDPの74%に匹敵する金額です。また「バコン」は、カンボジアの周辺国であるマレーシア、タイ、ベトナム、ラオス、中国の決済システムと接続しており、これらの国々の店頭のQRコードを「バコン」アプリで読み取ると、およそ10秒程度で国際送金が完了し低コストでのクロスボーダー決済が実行されます。
当社はこのブロックチェーンベースの決済システムを他国に横展開する活動を続けており、2023年2月
には、日本政府の支援を受けながらラオス中央銀行と共同でCBDC(中央銀行デジタル通貨)システムの実証実験を実施しました。その後、2023年11月
にはソロモン諸島においてCBDCシステムの実証実験を行い、大洋州島嶼国8カ国の中央銀行総裁が集まる総裁会議において実証実験の結果を発表しています。また、アジア開発銀行(フィリピン)の主導のもと、複数の国をまたぐクロスボーダー証券決済の実証実験を行っています。この実証実験においては、3つの国がそれぞれ異なる種類のブロックチェーンを利用している想定で、これらの国のブロックチェーン同士をつないで処理ができるかを確認しました。具体的にはR3社のCorda、Permissioned Ethereum、ハイパーレジャーいろはの3種類のブロックチェーンを相互に接続し、国をまたいでデジタル化された証券の販売とデジタル通貨による決済を同時に行う、いわゆるDVP(Delivery Versus Payment)決済の実証実験を行いました。
2024年度に当社は経済産業省の「グローバルサウス未来志向型共創等事業」に採択され、日本国政府の支援を受けながらパラオ共和国においてブロックチェーンを活用した貯蓄国際システムを開発しています。2024年9月末
には貯蓄国際システムのプロトタイプが完成し、パラオ大統領、パラオ財務大臣、日本大使、内閣官房が出席しセレモニーが開催されました。
また、パプアニューギニアにおいては2024年12月
よりCBDCの実証実験を開始し、次のステップに向けた検討が続けられております。当社にとって日本を含めて6カ国目となるブロックチェーン導入事例です。
日本においては、2020年7月
に福島県会津若松市の会津大学においてブロックチェーンベースのデジタル地域通貨システムがスタートし、現在も稼働を続けております。またこれらの実績を踏まえ、当社の関連企業が7つの自治体に向けたブロックチェーンベースのデジタル地域通貨システムを開発しております。
当社が目指しているもの
現在、世界の7割の中央銀行がCBDCの検討を行っていると言われていますが、当社はブロックチェーン技術を活用し世界中の様々な社会課題の解決に貢献したいと考えています。各国の中央銀行を直接訪問しディスカッションを行った結果、以下の5つの課題が存在しており、ブロックチェーン技術を活用したCBDCによりこれらの課題解決に貢献できるのではないかと考えています。
- 金融包摂、農業金融、徴税効率化
- 現金取り扱いコスト、決済コストの削減
- クロスボーダー決済と送金の効率化
- 決済の安定性向上、金融システムの安定
- 自国通貨の強化
カンボジアの都市部において「バコン」は、ほぼ100%どこでも使える環境が整備され、現金を使用している人々をほとんど見かけません。農村部においても普及率は50%程度と言われております。今まで農村部では近くに銀行の支店がないために、現金を各家庭で保存するいわゆる「タンス預金」をしており、盗難などの危険性がありました。また支払いの為に時間をかけて街まで出かける必要がありました。「バコン」導入後は農村の人々は銀行に預金を預けるようになり盗難の危険がなくなり、スマートフォンを利用して支払いは数秒で完了する様になりました。人々は今まで支払いに費やしていた時間を農作業に充てることができる様になり、農業生産性が向上したと言います。農機具の購入のためのローンの返済も、今まではローン会社の営業員が一軒一軒農家を巡回して返済金を回収していましたが、現在は「バコン」で瞬時に返済できるようになり、営業員の手間は大幅に削減されました。
「バコン」正式稼働後3年間の普及状況を分析した結果、「バコン」はキャッシュレスのもたらす利便性のみならず、金融システムの安定性向上、クロスボーダー決済の効率化、中小企業の資金繰りの改善、農村に眠っていた現金の流動化、自国通貨の強化などにより経済全体の活性化に貢献していることがわかりました。また、カンボジアの多くの人々から「自分たちの社会生活が大きく変わった。便利で安全になり経済活性化につながった」と感謝されています。
世界には、銀行口座を持てない国民が多く存在し、盗難の危険や不便な生活を強いられています。特に島国においては、現金のハンドリングコストが高く一部の島ではいまだに物々交換を行なっていたり、災害時に支援金を供給することが困難であり、出稼ぎで別の国で働いている場合に国際送金に日数がかかり手数料が高額であるなどの様々な課題が存在しています。当社はこのような社会課題をブロックチェーン技術により解決していくことを目指しています。
今までのキャッシュレスとの相違点
ブロックチェーンをCBDCやステーブルコインに活用した場合は、本質的に下記のメリットがあります。
- 改ざん・二重使用防止によるセキュリティの強化、決済安定性の向上
- 長い決済チェーンの短縮によるコストの低減
- 即時決済により資金繰り悪化の防止
- システムが停止しにくく災害などに強い
- 既存の金融システムと共存し融合する事により更なる高度化が図れる
- 24時間365日稼働し、クロスボーダー送金の各国の時差に対応
- スマートコントラクトの活用による自動化、プログラマブル・マネーの実現
現在のキャッスレス・システムは、基本的には銀行預金を移動させるための電子的な支払指図手段です。店頭でユーザが支払いを行なった時点では決済は完了しておらず、後日決済事業者が店舗の銀行口座に振り込みを行うことで、決済や精算が完了します。これらの処理を行うために複数の銀行やそれらを接続する決済システム、決済事業者のシステムなどを経て処理が実行されるため、決済や精算にコストと時間がかかり、店舗の決済手数料の費用負担や資金繰り悪化などの課題があります。
ブロックチェーンを活用したCBDCやステーブルコインでは、現金と同じようにデータそのものに価値があるため、ユーザから店舗へ、企業から企業へと直接価値が移動し複雑な決済システムや複数の銀行を経由しないため決済コストの低減が可能です。また、現金と同様に支払った時点から数秒で価値が相手に移動し決済が完了します。後日の精算業務は必要ありません。これにより店舗の資金繰りの悪化を防ぐことができます。下図において、現在のキャッシュレスとCBDC/ステーブルコインの比較をしています。
今後の展開計画
当社は、現在ASEANや大洋州島嶼国の国々の中央銀行に対して積極的に提案を行なっていますが、それら以外の国々からも様々な問い合わせを頂き、CBDCシステム市場の拡大を実感しています。また、大洋州島嶼国の様に人口規模の比較的小さな国々に対しては、1つのブロックチェーンで複数の国々のCBDCシステムや貯蓄国債システムをサポートする共通プラットフォームの開発を行なっています。この共通プラットフォームは、パーミッションレス・ブロックチェーンとパーミションド・ブロックチェーンを組み合わせて、合意形成やCBDCの発行時の認証などは共通プラットフォームとしてのパーミッションレス・ブロックチェーンが担当し、各国の国別のCBDCの残高情報や履歴情報は、国別のパーミションド・ブロックチェーンのノードが担当する事により、各国の通貨主権やプライバシーを守った上で、コストを低減しながら同時にクロスボーダー決済の仕組みを搭載できるのではないかと考えています。
当社はこのように、各国のCBDCや貯蓄国債システムを低コストで実現しながら、域内でのクロスボーダー取引の効率化を図っていきます。さらに、海外と日本とのクロスボーダー取引の効率化についても貢献できるのではないかと考えています。
日本国内においても、昨年のステーブルコインの法制度化を受けて、いくつかの企業がブロックチェーンベースのステーブルコインの開発を進めています。新しい技術の登場により、大幅なコストダウンや資金繰りの改善を実現し、クロスボーダー決済の効率化などの改革により、業界の勢力地図が大きく塗り変わる可能性があります。他社に先駆けて先進的な仕組みを取り入れた企業が、次の時代の新たな勝者になることでしょう。金融決済システムは、産業活性化のための血液循環にも例えられており、各国においてさらなる高度化、効率化、様々なイノベーションが生み出されてくると考えられます。是非とも、皆様と様々な協業を検討させて頂き、大きなビジネスチャンスに育てあげられればと思います。
参考URL
当社の実績や「ハイパーレジャーいろは」に関する詳細情報は下記のリンクをご参照ください。
- ソラミツ・ホームページ
- 最近のニュース
- 実践!ブロックチェーン いろは
- Hyperledger Iroha V2 documentation
- ブロックチェーン・アプリケーション運用管理基盤「磐船(IWAFUNE)」とは
現在職務
ソラミツ株式会社 代表取締役社長
東海東京フィナンシャルホールディングス 取締役
東京科学大学 経営システム工学 講師
ISO/TC307 ブロックチェーン国際標準化 委員
著書紹介
世界初の中銀デジタル通貨「バコン」 (株)日経BP
電子マネー革命はソニーから楽天に引き継がれた (株)インフキュリオンCardWave編集部