この記事では、トークンの基本概念、分類法、規制状況、ステーブルコインの特徴、そしてトークンが日常生活に与える影響について学ぶことができます。
翻訳 — 池口知佳(SBI R3 Japan インターン)
はじめに
近年飛び交っている「トークン」という言葉の歴史はブロックチェーン登場よりはるかに古く、手に取れる形のトークンは実に何千年も前から存在しています。さて、ブロックチェーンにおけるトークンと従来の(手に取れる形の)トークンとの相違点にはどのようなものがあるでしょうか?
さほど多くの違いはありません。
本記事は世界に存在するブロックチェーン上のトークンについて、それぞれの種類や関係がどのようなものか、読者の皆様の生活に関わる可能性があるものはどれか、現時点での分類を行うものです。
1.トークンとは何なのか
1970年代においては、トークンとは地下鉄の乗車券として用いられていたコインや切符を指していました。言い換えると、ここでいうトークンが意味するものは、「地下鉄会社が提供する『トークン保有者をある場所から別の場所に移動させる』というサービスに対する請求権」である、ということになります。
同じように、ステーブルコインのようなブロックチェーン上のトークンはそれが意味する価値が何であるかによって分類されます。Global Digital Finance associationによる暗号資産分類法においてトークンは、「資産の共有、一連の許可、または請求権の法的な体現であり、その所有者または負担者によって保持される」と定義されています。
この定義には重要な特徴が2つあります。1つは「トークンは価値を表すものである」こと、もう1つは「トークンの価値は保有者に付与されるものである」ことです。
例にもれず、ブロックチェーン上のトークンもこの二つの特徴を持っています。ここには、中央銀行デジタル通貨(CBDC)、ステーブルコイン、内部決済用トークン、セキュリティ・トークン、暗号資産、NFTなどが含まれます。
ここまでトークンの共通点について説明しました。次節ではトークンを分類する特徴について説明します。
2.トークンの分類法
JPM Coin、USDT、サンドダラーの違いを2文で説明しろと言われてできるでしょうか?私たちにもできません。トークンは単一の評価軸上に並んでいるわけではなく、様々な方法で分類可能であるため、比較が困難です。今回はわかりやすくするために以下の4つの基準を採用しました。
- ホールセール/リテール(Wholesale vs retail):主に法人向けか個人向けか
- 代替性の有無(Fungible vs non-fungible):同種の他のトークンと1対1で交換できるか
- 規制の有無/規制に沿っているか(Regulated vs non-regulated):トークン発行のために国内の機関への登録を行う、必要な各種規制に従う等の対応を行ったか
- 資産担保の有無(Asset-backed vs non-asset-backed):トークンをブロックチェーン外の原資産に交換できるか
図1では、一般的なトークンをこれらの基準に当てはめています。図を確認していく前に、3つ注意点をお伝えしなければなりません。まず1つ目は、この基準は未確定な部分を含んでいるという点です。ここでいう「規制に沿っている」とはどういう意味なのかについては後のセクションで検討します。2つ目は、公的に定められたトークン用語集のようなものは存在しないという点です。(ただし、そういったものを作ろうという継続的な取り組みは基盤側でも法律側でも行われています。)3つ目は、いずれかの基準でどちらの特徴にも当てはまるトークンについては私たちの判断で一方に分類している点です。例えばXRPは個人の顧客も購入が可能ですが、RippleNetは機関投資家のみが利用可能であるため、ホールセールに分類しました。
また、いくつかこの図に含めなかったトークンがあります。「ユーティリティ・トークン」は暗号資産の一部を表す呼び名であるため、CBDC、セキュリティ・トークン等のような、「トークンの種別名」としては採用していません。また、全てのユースケースにブロックチェーンを使用しているとは言えないトークンは著名なものであっても除外しています。一例を挙げると、DC/EPと呼ばれる中国のCBDCはブロックチェーンの使用が限定的であるため、除外対象となりました。
表に含まれるトークンを種類ごとにまとめたものが以下になります。
ステーブルコイン:テザー(USDT)、USDC
暗号資産:ビットコイン、リップルネットのリップル(XRP)、イーサリアム
CBDC:スウェーデンのeKrona、ナイジェリアのeNaira、ホールセール型CBDC(wCBDC)
内部決済用トークン:JPM Coin、Wells Fargo Digital Cash(WFDC)
セキュリティ・トークン:SDX bond、PAX GOLD、Non-fungible Real Estate Token
その他のトークン:欧州投資銀行のEIB bond、Non-fungible Token(NFT)
上の分類で同種とされるトークンであっても設計により差異が生じることを強調するため、図中の各トークンについて種別を表す総称ではなく具体的な名称を用いています。例えば、同じCBDCのトークンであっても、法人向けのものと個人向けのもの(例:バハマ中央銀行が発行したCBDCであるサンドダラー)の両方が含まれます。
CBDCと同様に、セキュリティ・トークンの中においても差異がみられます。セキュリティ・トークンはその原資産によって代替性の有無が変わります。(債権を表すものは代替可能、特定の地理的/空間的な部分を表すものは代替不可能といった具合に。)
また、セキュリティ・トークンは資産担保型と非資産担保型にも分類されます。資産担保型のものはカストディアン(投資家に代わって有価証券の保管・管理などの業務を行う金融機関)に預けられている既存の資産の法的所有権を表す、つまり換金が可能です。非資産担保型のものはブロックチェーン上で新たに発行・記録されます。前者はPAX GOLD、後者はSDX bondなどが例に挙げられます。
同じ暗号資産に種別されるXRPとビットコインもまた、図中で別の枠内に配置されています。XRPは法人向け、ビットコインは個人向けに開発されました。このような、同種別の中での多様性は発行者が様々な機能を試そうとするために起こる試行錯誤の結果を反映しています。
3.「規制に沿っている」トークンとは
トークンに対する体系的な規制を行っている地域は未だほとんど存在していないにもかかわらず、図1では「規制に沿っている(Regulated)」という分類を用いています。セキュリティ・トークンのようにそもそも取引に関する規制・制度が存在する資産を取り扱うものや、CBDCのように規制を敷く側が発行するものをこの分類に入れています。
この分類にはRegulatedという一語だけでは表しきれない複雑な背景があります。まず、「特定のトークンやトークン発行者だけが規制に対応する必要がある」というわけではないことを言っておく必要があります。
IMFは、その分類法においてほとんどのステーブルコインが、「部分的に規制されている」というグループに入る、つまりトークンの構成要素が規制に沿っていると指摘しています。また、IMFが設定した「包括的に規制されている」というグループに入るステーブルコインは存在していません。例えばCBDCのように規制を行う側が発行しているトークンであっても、国境を越えたユースケースが発生すれば追加の規制が必要になることが予想されるためです。
本記事中において「規制に沿っている」と分類されるトークンの例としてはまずセキュリティ・トークンが挙げられます。このトークンは規制の厳しい有価証券を表すため、アメリカのSEC(証券取引委員会)や世界各国の同等の機関によって精査されています。最近では、スイスのSDXがセキュリティ・トークンの発行に成功しました。SDXについてはスイスの規制当局がデジタル債券の発行に直接関与し、認可された証券取引所及び中央証券保管機関(CSD)としての登録を行いました。
もうひとつの例はCBDCです。CBDCはその国の中央銀行が発行するため、本記事においては「規制に沿っている」と分類しました。各国政府がデジタル・トークン化のメリットを認識するようになり、CBDCへの関心はますます高まっています。ソブリン通貨の伝統的な管理者である中央銀行は、民間の資金がマネーサプライや金融安定性に与える影響を理解した上で管理を行う法的義務を負っています。
研究の中で、トークンが金融政策の手段としても採用される可能性があることが明らかになりました。設計にはいくつか選択肢があり、活発な議論が続いています。
ステーブルコインは現在、規制の文脈ではグレーゾーンにあると言えます。一部のコイン発行者はリスクを避ける投資家にアピールするために、ステーブルコインの構成要素の一部を他種の金融事業向けの既存の規制に対応させているからです。テザー社のようにほとんど規制への対応を行わない発行者もいますが、ステーブルコイン発行者の中では既存の電子マネーや暗号資産の規制にサービスを沿わせるという戦略の方がより一般的です。米国の例を挙げると、USDCを発行しているCircle社はニューヨーク州のビットライセンスを持ち、FinCENに登録され、複数の州の送金業者ライセンスを持っているのに対し、PaxosはビットライセンスとOCCの連邦信託チャーターを持っています。両者に違いはありますが、どちらが正しいというわけではありません。より明確なライセンス制度が確立されるまでこのような状況が続くと予想されます。
今後、規制の範囲を均等にするため新しい規制が続々と登場すると思われます。米国では、FDICとOCCが参加するワーキンググループが最近、より体系的な法規制を求めるペーパーを発表しました。
4.グレーゾーンのステーブルコイン
ステーブルコインは、2018年のビットコイン価格の暴落を受けて人気を博した暗号資産の一種です。法的な定義はまだありませんが、多くの国際標準化団体では、(暗号資産のボラティリティとは対照的に)いくつかの外部資産に対して価格の安定性を維持するように設計されたトークンの一種として定義されています。
他の金融資産を表す金融トークンの概念は新しいものではありません。例えば、1969年に創設されたIMFの特別引出権(SDR)も通貨バスケットと結びついています。しかし、ステーブルコインの場合、価格の安定は何らかの基準となる資産を水準とするのが一般的です。基準となる資産は、USDPのようにUSドルであったり、Digixのように金であったりします。
現在、ステーブルコインの主な用途は3つあります。
- 1つ目の、最も一般的な用途は、暗号資産の取引です。トレーダーは暗号資産のボラティリティーから得た利益をステーブルコインに変換することで、より迅速に利益を確定させることができます。基軸通貨への変換と比べて時間もリスクも伴いにくい方法となっています。
- 2つ目の用途は、国境をまたいだ決済です。主に開発中のものになりますが、Fnality USCや韓国ウォン建てのステーブルコインなどが例として挙げられます。この用途はあまり一般的ではありませんが、金融安定理事会のG20ロードマップや米国大統領のワーキンググループの報告書に項目として追加されるほど注目されています。
- 3つ目の用途は、ネットワーク内の取引です。この用途で使用されるトークンは、ネットワーク内の主体の間で価値を移転させます。この用途では参入を制限したクローズドループ型を採用しているため、これらのトークンは個人の顧客には利用できません。
5.生活に影響を与えるトークン
皆様も我々も、これまで紹介したあらゆるトークンに様々な形でかかわっています。皆様の中には、暗号資産やステーブルコインを保有している方もいるでしょう。あるいはトークンを使って投資、取引、価値の移転を行っている方も。また、銀行がトークンを使用している場合、決済の迅速化の恩恵を受けている方もいるかもしれません。個人向けのCBDCがある国に住んでいる方は、新しい決済手段へのアクセスが可能かもしれません。
結局のところ、このような新しい種類のトークンが存在するということは、決済、所有権、投資、ガバナンスの分野で継続的な革新が行われていることを示しています。オークションの勝者としてのDAOの台頭や、複数のCBDCプロジェクトが完成に近づいていることなどに、このイノベーションの一端が見え始めています。R3のCBDCのサンドボックスは、プラットフォームとしてだけでなく、様々なデザインの選択肢を理解するためのツールとしても導入されています。
本記事の内容はあくまで議論の始まりに過ぎません。そして、定義は今後も変わっていくでしょう。これらの定義や問題点について、皆様からのご意見をお待ちしています。ご意見はメールでお寄せください。
参考:本文で出た各用語の定義
国の通貨のデジタル形式であるデジタルトークンとして使用可能な、(現金や準備金と並ぶ)中央銀行の第三のマネーです。
中央銀行から独立して運用され、交換手段として機能するように設計されたデジタル通貨です。
内部決済用トークン
銀行が内部決済のために発行するトークンを表す言葉で、多くの場合、預金に裏付けられています。銀行コインと呼ばれることもあります。
デジタル的にユニークな資産を表します。小さな単位に分割することはできません。
現実世界の有価証券を表すもので、主に法人の経済的な利害関係を表します。つまり、小売可能、代替可能、分割可能、プログラム可能です。多くの場合、利子を支払い、配当を得ることができます。
安定した準備資産に結びつけられたトークンで、暗号資産のボラティリティを低減するように設計されています。
保有者にサービスや将来の
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