ゲームのデジタルアセットを例に、パブリックブロックチェーンとエンタープライズブロックチェーンでそれぞれ非中央集権化とはどう言うことなのか、中央集権化している要素はなにかについての考察
はじめに
企業にとっては、分散コンピューティングと分散型コンセンサスの世界を、自分たちの優先事項である「中央の指揮統制、単一の立場からすべてを読み取れ、説明できる」というイメージに作り変えようとするのは常に魅力的なことでしょう。私は、このような力が、売り込みに次ぐ売り込み、会議に次ぐ会議の中で実施されるプレゼンテーション上で展開されているのを目にしてきました。
技術的には悪くないし、インセンティブも理解できます。。。ただ、すべてが的外れではないでしょうか?
私たちは立ち止まって、自分たちが実際に何を作ろうとしているのかを考えるべきです。
イーサリアムの起源は広く知られています。World of Warcraft™の熱心なプレイヤーであったVitalik Buterinは、彼のお気に入りのキャラクターであったウォーロックを中心に活用されていた強力な呪文をBlizzard Sotwares社が「nerf(ゲーム内の設定を変更して特定のスキル、呪文の効力を大幅に弱くすること)」し、彼の途方もない時間に及ぶ熱心なゲームプレイで積み上げたものを一瞬で崩壊させました。
彼は絶望しそのゲームをやめました。その日、Buterin氏は「中央集権的なサービスがどんな恐怖をもたらすかを理解した」と書いています。
イーサリアムは、”取り消し不能の所有権”への欲求から生まれたものとも言えます。”私のものは、私が署名するまで永遠に私のものだ。”
もしくは、よりButerin氏の意図に近いかもしれませんが、分散型ガバナンスへの欲求から生まれたものかもしれません。単一の権威が他者の利益に影響を与える決定を一方的に下すことはできないことが重要だと。
イーサリアムのブロックチェーン上の取引は、ハードフォークのメカニズムによって取り消すことができますが、マイナーの過半数が直近の”歴史”を覆し、別の方向に新たに進むことに同意する必要があります。もし「Siphon Life」(warcraftの呪文)がゲームのバランスを崩すという結論にWarcraftのコミュニティ全体として達していたなら、Buterin氏はおそらくその決定に従うことで満足したことでしょう。
さて、このような理解を持った私は、先日次のような講演を聞きました。ゲーム会社が武器や衣装アイテムなどの資産の移動を集中管理できるという点で、パブリックブロックチェーンとパーミッション付きネットワークのハイブリッド型の利点を宣伝しているのです。本当に面食らいました。
パブリックブロックチェーンでは、プレイヤーがそのようなアセットを表すトークンを所有していることが明示されますが、取引はゲーム会社が管理するオフチェーンのロールアップを通じて行われ、ゲーム会社はその裁量でトークンを取り戻す特権を保持することができるというのです。もし、あるプレイヤーがTwitchのストリームで口汚く、偏見に満ちた暴言を吐いた場合、ゲーム会社は利用規約を強制的に適用し、そのプレイヤーを切り捨てることができるようになります。というのです。これは確かに、ゲーム会社がやりたいと思うことは非常に理解できるのですが・・・
あらゆる公共メディアのプラットフォームは、何らかの意味で、門番的責任を負っており、その責任を果たせないプラットフォームは必ず、卑劣で悪辣な人間の巣窟となります。しかし、検閲に強く、権威を分散させ、昔から存在する大企業による中間搾取を避けることを目的に設計された技術プラットフォーム上に、門番的責任機能を移植することは、「両方の世界のいいとこ取りをする」のではなく、存在意義について深く混乱したキメラを作っていることになるでしょう。
そもそも、なぜゲーム上のアセットをパブリックブロックチェーンに置くのか。
その答えのひとつは、そのようなアセットにセカンダリーマーケットが発生することを想定しているからです。アセットが収集可能であったり、ゲームの世界ですぐに役立つという理由で価値があると見なされるようになれば、プレイヤーは自分の腕前や何時間もかけて研磨する意欲によって富を得られる可能性に魅力を感じ、ゲームに参加するようになるでしょう。NFTコントラクトを使用してゲーム上の宝石の所有権を管理することの利点は、投機筋から手っ取り早く現金を吸い上げるという見込みのほかに、これらの資産の所有者にとって安全で信頼できる形で保管されていると感じられることにあります。
このような契約において、トークンを中央集権的な不換紙幣によって気まぐれに奪い取ることができる仕組みと融合させた途端、その信頼の基盤は完全に失われることになるのです。パブリックブロックチェーンネットワークが単なるデータ配信メカニズムとしては(門番的責任を負うことができないという意味で)疑わしいという以外に、何か残るものはあるのでしょうか?
NFTは一攫千金を狙える手段として一時期脚光を浴び、その魅力から、他の用途にも適しているのではと多くの期待が寄せられました。しかし、根本的には、NFTは、ある権利の所有権に関するネットワーク上のコンセンサスを表すものでしかありません。しかし、ブロックチェーンを魔法のように捉える人々にとっては、単なるコンセンサスを議論の余地のない事実として即座に全世界に明らかにすることだと転換してしまいました。
プレイヤー dom_fox420 が伝説の「ノポルトの斧」を持っているとブロックチェーンに記録すれば、世界中のすべてのゲームがその情報を利用できるようになるというのです。斧を溶かして原料にし、宇宙船の装甲板を製造することができるようになる、ということも想定できます。しかし、このような普遍的な想像力のビジョンが魅力的であればあるほど、伝説の「ノポルトの斧」の特性を、あらゆる異なる文脈でどのように表現し解釈するかを決めるルールを、誰かが設計しなければなりません。(訳注:これはNFTにできることではなく、NFTである「ノポルトの斧」を用いるゲームのそれぞれで共通に実装する必要があります)
共通のルールを取り込むのは簡単なことですが、パブリックチェーンはそのための効率的で便利なメカニズムでは決してありません。
私の宇宙船建造ゲームとあなたの剣と魔法のゲームの共通言語を設計することは、決して簡単な仕事ではありません。「ノポルトの斧」を、前者は宇宙船の装甲板の原料として、後者はカオス魔法を注入した1.3kgのミスリルの塊として解釈することができます。
イーサリアム上に「ノポルトの斧」があることの利点は、この2つの解釈が魔法のように調和していることではなく、あるトークンと別のトークンを交換するという基本操作を、それらがどのようなものをトークン化しているかにかかわらず、そしてどちらのゲームの開発者が交換のメカニズムをコントロールすることなく、確実に実行できることにあります。しかし、これはレイヤー1のネットワークに限った話です。このような自由な交換を可能にするためには、トークンは何らかの中央集権的な機関によって仲介されるロールアップ・チャネルが提供する箱庭の中から抜け出さなければなりません。
一方、同じイベントで、エンタープライズブロックチェーン側が(訳注:悪い意味で)逆襲していることがますます明らかになりました。
それは、一つの中央集権的なプラットフォーム上から、あらゆるブロックチェーンを単なるサービスエンドポイントとして利用し、さまざまな資産を管理できるBPELエンジン(業務プロセスのシステム化基盤)として実現しようというのです。
このシステムの魅力を理解するのは難しいことではありません。より広範囲のバリューチェーンを実現するために、複数のブロックチェーン上の資産を一元管理するシステムは、より広大で多様な領域に対して実権を握ることを意味します。
これは、エンタープライズブロックチェーンが得意とするところです(実際、チェーンの歴史的使命でもあります)統合するための部品はすべて揃いつつあり、あとはコンサルタントにお金を払って構成してもらうだけです。しかし、その過程で、ブロックチェーンシステムの社会技術的な存在意義、そして商業的なより広範な可能性の両方が削ぎ落とされ、矮小化されてしまうのもまた事実なのです。
ブロックチェーン技術が技術的な意味で社会に何を提供できるのか、何が愛好家をこの世界に引き寄せているのか、彼らはそこでどんな未来を切り開くことを望んでいるのか、改めて明記しておく価値があるのではないでしょうか。
おわりに
このビジョンに対して、妥協すればするほど、最悪のシナリオに近づくことになります。このシナリオでは、新興のテクノロジーは、”尖っていること”そして”認知的に不慣れであること”だけを利用されてしまいます。新規性と話題性だけが先走り、従来と同じビジネスを行うための危険で非効率な手段としてやみくもに使用されることになります。
エンタープライズソフトウェアは刺激的であるべきではありません。スポーツカーに乗り、高級住宅地に住み、キラキラとした生活をするだけで、威厳と重みを持った人物になることは滅多にないのです。
その一方で、ブロックチェーン分野の最先端は、非常にエキサイティングな場所であり、これまでしばしば取りざたされてきた誇大広告や魔法のような思考が消え去り、根本的な技術的課題と機会がより明確になるにつれて、さらにエキサイティングになります。
私たちは未来を発明するチャンスに恵まれているのです。
<ご質問・ご要望の例>
- Corda Portalの記事について質問したい
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SBI R3 Japan エンジニアリング部長
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