ブロックチェーン黎明期の2016年における未来予想(そもそも当たると思っていなかったが意外と良い線を行っている?)を振り返った上で、改めて今後の未来予想を考えてみました。年末の頭の体操だと思って読んで頂ければ幸いです。
2024年「ブロックチェーンビジネス・アドベントカレンダー企画」25日目(最終日)の記事です。 関連企業の皆様にも記事を書いていただきましたので、是非お立ち寄りください!
はじめに
SBI R3 Japan代表の藤本です。Advent Calendarの締めくくりを頼まれたのですが、”今”のトピックは他の皆さんが語っておられるので、少し視点を変えて過去の未来予想の振り返りと来年以降に向けた未来予想(=頭の体操)をさせて頂きます。
私がブロックチェーンの未来予想を書いた2016年は日本銀行が初めてマイナス金利を導入した年であり、米国でトランプ氏が大統領に当選した年でした。 ブロックチェーン界隈では「ブーム」が始まった年であり、SBIにブロックチェーン推進室が設置された(私がその責任者に就任した)年でもあります。
世の中はまだ暗号資産(当時は仮想通貨)とブロックチェーンの区別もついていない状況のなか、おこがましくもブロックチェーンの未来予想を執筆させて頂いたのは懐かしい思い出です。当時書いた内容を振り返りつつ、次の未来予想を考えてみたいと思います。
2016年時点の未来予想
出版物ですのでフォーマットというか、切り口として予め3つの観点が決められており、それに沿って自分の考えを整理しました。以下はその要旨と現時点の自分なりの評価です。
市場トレンド
- 仮想通貨は政府や中央銀行に管理されないソーシャルな価値交換手段として存続 ⇒ちょっとハズレ!ソーシャルな価値交換というよりは投機の対象になってしまっている感じが強い。
- 一方で法定通貨と等価なデジタル通貨が普及 ⇒アタリ!当時はまだ「ステーブルコイン」の概念は無かったが、今や無くてはならない存在となって来た。
- 価値移転・権利移転のプラットフォームとして商用利用が進展、DLT製品・サービスが定着 ⇒残念ながらハズレ!多くの実証やパイロットPJは進められたが、定着化にはまだ時間がかかりそう。
- 仮想通貨・デジタル通貨の市場規模は100億ドルから5000億ドルまで拡大する ⇒アタリ過ぎ?というより過少に見積もっていました。今や暗号資産の時価総額は3.5兆ドルなので1桁見誤りましたね。
商品トレンド
- パブリック型はBitcoinの課題を解決するネオBitcoinが登場し社会的認知を得る ⇒ややアタリ!Layer1およびLayer2の新たなチェーンが登場し(もちろん淘汰されたものも多々あるが)定着しつつある。
- コンソーシアム型は機能進化が進みパブリック型とは完全に別のプラットフォームになる ⇒ややハズレ!様々な実証実験が進んでいるが大規模な社会実装に至った例はまだ少ない。
- DLT製品と実行基盤のパッケージ化 ⇒ハズレ!BaaS(Blockchain as a Service)としてパッケージ化が進むと予想したがBaaS自体あまり聞かなくなってしまった。
技術トレンド
- 暗号技術、コンセンサスアルゴリズム、Layer2拡張等の重要な技術に対し学術的な検証が進展 ⇒ややアタリ!もはや未成熟な技術という印象はなく、アカデミアも含めた技術検証も進められていますね。
- IoT時代の通信・セキュリティ技術とブロックチェーンの組み合わせによる進展 ⇒ハズレ!ちょっと先読みし過ぎた感は否めないですが、IoT機器を用いたM2M決済とかエッジデバイスからのデータ収集等チャンスはまだあると思っています。
- 金融EDIや商流EDI(それらのプロトコル標準)と融合し適用範囲を拡大 ⇒ややハズレ!金融メッセージ標準に準拠したインターフェースを装備したブロックチェーンソリューションや、サプライチェーントレーサビリティを提供するブロックチェーンソリューションは登場しているものの「適用範囲を拡大」とまでは行っていない。皆が使わないと使われないというジレンマですね。
この8年を振り返って自分なりの採点
60点!(ぎりぎり及第点かな?)
- 市場トレンドについて、暗号資産市場規模は10倍程度は行くだろうと予想していたものの100倍を超えるとは先見の明が無いですね。当時はTradFiのプレーヤーが代替投資として参入することまで予想できませんでした。一方で、製品・サービスとしてのブロックチェーンはなかなか思い通りに伸びていない。これはエコシステムの問題かもしれません。この点は2024年時点の未来予想の中で改めて触れます。
- 商品トレンドの中でプレーヤー(製品・サービス提供者)の絞り込みが進むであろうと見ていましたが概ねそのようになっており、商品としては成熟して来たと思います。一方で、社会実装のバリエーションは残念ながらまだまだで、そこはハズレてしまいました。
- 雨後の筍のように玉石混交な人たちがホワイトペーパーを発表し消えていったような状況ではなく、技術の裏付けがついて来たと思います。一方で様々な応用を夢に描いていたのものはあまり実現されていません。この点についても2024年時点の未来予想で触れます。
2024年時点の未来予想
変に解釈される可能性もあるので同じ切り口での未来予想はしないでおきます。(特に市場トレンドとかは数字が独り歩きするリスクもあるので!)
その代わりに、私が今後どう進展して行くと思っているか希望を含めて書かせて下さい。この考え方は正しいとか間違っているとか、色々な議論をするきっかけになれば幸いです。
以下、「ブロックチェーンの未来予想 at 2024年末」です!
- パーミッションドとパブリックのハイブリッド化が進む
- トークンエコノミーは現実社会に実装される
- ネットワーク効果により社会コストは大きく減る
1.パーミッションドとパブリックのハイブリッド化
8年前は両者の特徴の違いからパーミッションドチェーンとパブリックチェーンの分化がどんどん進むと予測しましたが、本当の価値はこれを組み合わせて使う事だと思えて来ました。例えば機密性の高い情報を特定の相手先とのみやり取りするのであればパーミッションドチェーン、不特定多数との決済(もしくはトークンの授受)を行うのであればパブリックチェーンが適しており、実際にこれらを組み合わせた方が効果的と考えられるユースケースがあります。
今はまだ「どちらを選択すべきか」という二者択一の問題になりがち(要件に照らして比較表を作っていたり)ですが、情報に価値を付与しセキュアに相手に渡せるツールとしての活用が広がってくれば、自然と適材適所に組み合わせて使える(それが可能となるよう様々な標準化が進む)と思います。既にEVM系ではそういった動きが始まっていますね。
逆の見方をすると、様々な標準化が進むことでクロスチェーン実装に物凄く労力をかける事は不要になる(そこに技術的なチャレンジをしなくても良くなる)ことを期待しています。その結果として適材適所の選択によるハイブリッド化が進むのではないかと思います。
2.トークンエコノミーは現実社会に実装
ブロックチェーンエコシステムをどう作るかに苦労している(というか失敗を繰り返している)立場から、「何かサステナブルな方法があるはず」とずっと考えています。
金融は経済の血液と言われますがそれはブロックチェーンにも当てはまって、トークンはブロックチェーンの血液なのかなと。8年前に「暗号資産がソーシャルな通貨として定着する」と予想したのはまさにトークンエコノミーが出来ることを期待しての事でした。その過程として、(クリティカルマスに達するためにも)暗号資産への投機が必要だった(これは歴史の必然?)ように思います。実際、時価総額はクリティカルマスに達したので、次のステップに進む段階かと。
もしかしたら暗号資産を使ってトークンエコノミー実現を目指すという誤解を招いたかもしれませんが、そうではありません。トークンエコノミーはパブリックチェーンやWeb3に限った話ではなく、最近私が関与する界隈でよく耳にする「産業データスペース」にも応用できると考えています。情報には価値があるので、情報を得たい人は何らかの対価(トークン)を支払って情報にアクセスする、情報プラットフォームは情報の真正性を保証しアクセス権も制御する(情報の流通や情報へのアクセスの記録を保全する)という仕組みを作ろうとしているのですが、その基盤にブロックチェーンは適している(中央集権的な技術で作ろうとすると大変そう)と思います。
情報の透明性は必要とはいえ、企業が”タダ”で情報を出す理由はありません。また、相手が誰かわからずに情報を渡すこともありません。結果として今は情報がサイロ化してしまっています。データスペースの参加者が安心して情報を流通できる(それによるメリットを享受できる)ためにトークンエコノミーの考え方を適用するのは有効であり、結果として情報の透明性も増す(もはやデータ改ざん問題はなくなる=できなくなる)、そういう世界が来ると信じています。
3.ネットワーク効果により社会コスト大幅減
これはSBI R3 JapanのMissionにもなっていますが、2020年に検討を開始したBusines Resilience Platform(BRP)構想の大きなテーマの1つでもあります。BRPというのは中小企業も含めて多くの事業者・事業所がネットワークでつながり、それぞれの事業活動情報(本人確認情報、取引情報、財務情報、その他もろもろの属性情報)の信頼性が担保される仕組み(実現方法としてはElectric Attestation of Attibute等)で、それにより「正直ものが得をする」「嘘つきは損をする」仕組みが予め組み込まれているプラットフォーム構築を目指しています。期待される効果としては地場・中小企業を含めたサプライチェーン強靭化を目指すという(かなり大それた)ものです。
先に触れた「産業データスペース」もこの構想の一部なのかなどと妄想しつつ、日本ではなかなか進まないデジタル化がブロックチェーン技術を活用して一気に進めば、あまり付加価値のないお仕事(データの突合せ確認とか)が一気になくなり大幅な社会コスト低減が実現できるものと信じています。
最後に
さて、2032年はどのような世界になっているでしょうか?
その時にはもう私は引退しているかと思いますが、それまでは上記の未来予想が出来るだけ当たるよう(少なくとも60点以上はとれるように!)引き続きブロックチェーンの社会実装に取り組んで行きたいと思います。
さあ、来年も勉強!勉強!
<ご質問・ご要望の例>
- Corda Portalの記事について質問したい
- ブロックチェーンを活用した新規事業を相談したい
- 企業でのブロックチェーン活用方法を教えて欲しい 等々
SBI R3 Japan(株)代表取締役CEO
SBIホールディングス(株)執行役員 ブロックチェーン推進室長
SBI金融経済研究所(株)取締役
Fintech研究会主幹
社会人になってから長年金融の業務・システム・制度にかかわって来ましたが、ここ数年は「金融を核に金融を越えるんだー!」という掛け声に合わせて脱皮(?)を図っています。ご縁があって、半導体とかサプライチェーンとかトラストとか新たな分野にチャレンジしています!